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Essay

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鳴海邦彦が思いつくままに、そして気ままに綴るフリーエッセー。
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2020年5月の記事一覧

エッセー 「私的死生観」

 人間である以上”死”からは絶対に逃れることはできない。  人間は母親の胎内から生まれ出でた瞬間から死へのカウントダウンが始まる。  人間の寿命はあらかじめ決まっている。生まれてすぐに命を落とす者、幼くして命を落とす者、若くして命を落とす者。一見すると残酷なように思える理不尽な死も、実はあらかじめ決められたプログラムなのである。そしてそれを決めているのは “神”という名の宇宙の摂理。  若くして理不尽な死を遂げる者がいる反面、100%命を落としてもおかしくない状況の中か

エッセー  「まさに瓢箪から駒! 偶然が生んだ奇跡の大ヒット CW・マッコール "CONVOY(コンボイ)"」

 70年代半ば、全米では大CB無線ブームが起こった。それまでごく一部のアマチュア無線愛好家だけのものだったCB無線が、トラック運転手たちの間で爆発的に売れ始めたのである。  CMディレクターの Bill Fries がCW MaCall(CW・マッコール)名でリリースした 「コンボイ」 は、そのCB無線でのやりとりされる専門用語・隠語を羅列して作った企画ソングであった。  この曲は元々CB無線のコマーシャル用に作ったキャンペーン・ソングだったのだが、思わぬ大ヒットとなって

エッセー 「能天気に明るく、爽快感溢れる映画 "トランザム7000(Smokey and the Bandit)"はアメリカンムービーの真骨頂である」

 1977年に製作された「トランザム7000」はポンティアック・ファイアーバード(ブラックバード)・トランザムがスクリーン狭しと活躍する、いかにもアメリカ的めちゃめちゃ陽気なアクション・コメディの傑作だ。  テキサス州の大富豪、ビッグ・イーノスとリトル・イーノスのバーデット親子に、クアーズビール400ケースをテキサス州東部のテキサーカナで積んでジョージア州アトランタまでの片道900マイル(約1450km)を28時間で往復すれば成功報酬8万ドル支払うと持ちかけられた伝説のトラ

エッセー 「アイザック・ヘイズ "Thema from SHAFT 2000 "」

 1971年、リチャード・ラウンドトゥリー演じる黒人探偵ジョン・シャフトが、ニューヨークのハーレムを舞台に大活躍する映画「SHAFT(邦題/黒いジャガー)」は、空前の大ヒット作となった。  そのサウンドトラックアルバムは、グラミー賞の「映画・テレビサウンドトラック部門」とゴールデングローブ賞を受賞。メインテーマ曲である「Thema from SHAFT」は、アカデミー歌曲賞とグラミー賞インストゥルメンタル・アレンジ部門を受賞に輝いた。  激しい黒人差別の嵐が吹き荒れる当時

エッセー 「映画  ” デルタ・フォース ” チャック・ノリスはパックス・アメリカーナのシンボルである」

 体毛びっしり、オイニーむんむん系と言えばこの人! そう、チャック・ノリスである。  チャック・ノリスはドルフ・ラングレンやジャン・クロード=ヴァンダムなどを輩出した全米カラテチャンピオンから銀幕デビューした生粋の格闘系アクションスターである。  「ドラゴンへの道」で、ローマのコロセウム(実際は香港のスタジオ)で我が師・李小龍(ブルース・リー)と死闘を演じ、一躍その名を世界に知らしめた。  いかにもアメリカン(しかも中西部)な顔つきと、ヒマラヤの雪男もかくやという毛深さ

エッセー 「三菱ギャランGTOが疾走する異色のロードムービー "3000キロの罠"」

 1971年に製作・公開された田宮二郎主演作品『 3000キロの罠 』は、全編を三菱ギャランGTOが疾走する異色のサスペンス・ロードムービーである。  大映の専属俳優として活躍していた田宮二郎は、1968年、映画「不信のとき」のポスタークレジットの序列で会社と対立し、一時期映画界から追放されていた。  当時の映画産業はまさに花形であり、作品はすべて自社製作が原則だった。  さらに、5社協定という業界規定により、追放された他社の専属俳優をライバル会社が起用することを厳格に

エッセー「R.I.P ロイ・シャイダー、"重犯罪特捜班/ザ・セブン・アップス"」

 1973年に製作されたアクション映画「THE SEVEN-UPS(邦題/重犯罪特捜班 ザ・セブン・アップス)は、大好きな俳優の一人だった故ロイ・シャイダーの初主演映画である。  ' 暴力には暴力 ' をモットーに、兇悪な重犯罪(刑期7年以上の重犯罪、原題はここから来ている)のみを手がける非公式捜査班 " ザ・セブン・アップス " の活躍を描くこの作品、製作・監督は「ブリット」「フレンチ・コネクション」のプロデューサー、フィリップ・ダントニが手掛けている。  物語後半の見

エッセー 「MAD MAX(マッド・マックス)日本劇場公開版エンディングテーマ 「Rollin' Into The Night」

 1979年、衝撃のカーアクション映画が公開された。  バイロン・ケネディ製作、ジョージ・ミラー監督、メル・ギブソン主演のオーストラリア映画「MAD MAX」(マッド・マックス)である。  すべて無名のキャスト、そしてオーストラリアというマイナー(当時は)な国、しかもたった$350,000という低予算で製作されたこの作品は、世界中の映画ファンに衝撃を与え、各国で記録的な大ヒットとなった。  その日本公開版のエンディングで流れたのがこの曲「Rollin' Into The

エッセー 「70年代の荒ぶる青春群像を描いた異色のカーアクション映画 "ヘアピン・サーカス "」

 キャッチコピーは「真夜中のハイウェイ 愛に飢えた2台の車が絡み合う いのちを燃やして疾走する男と女」である。  「青春の門」で有名な直木賞作家・五木寛之原作を元に映画化された異色のカーアクションムービー ' ヘアピン・サーカス ' は、70年代モンドムービーの中でも一際異彩を放つ快作である。  なにしろキャストが凄い。  主人公の元レーサー・鳥尾俊也を演じるのは当時人気絶頂期の現役レーシングドライバー・見崎清志。  相手役の小森美樹役には富士グラチャンシリーズのレ

エッセー 「追憶 伝説の高級牛丼店「特選吉野家あかさか」

 今を遡ること34年ほど前、赤坂見附駅の一ツ木通りに伝説の高級牛丼店「特選吉野家あかさか」が存在した。  その名前からもわかるように、あの吉野家が経営していた高級牛丼店である。  一ツ木通りに面したその店の門構えはまるで高級割烹店の趣を呈し、一歩店に足を踏み入れると、そこは我々が知るところの「吉野家」とは全くの異空間であった。  入口のレジ付近に置かれたガラス張りの冷蔵ケースの中には、白布で包まれた牛肉の塊と、「しゃぶしゃぶ」用にスライスされた霜降り肉の「薔薇盛り」とが

エッセー 「萬屋錦之介礼賛 異端の名作"長崎犯科帳 "を語る」

空に真っ赤な雲の色 玻璃に真っ赤な酒の色 何でこの身が悲しかろ 空に真っ赤な雲の色 江戸末期の長崎は、オランダ貿易に開かれた唯一つの港であり、巨大な利権と暴力の渦巻く暗黒の街であった。 この利権を操る者は一握りの豪商達であり、貧しい町民たちは彼らの搾取に泣きその暴力に怯えるしかなかった ここに、白日の法の下で裁くことの適わぬ者は闇の法の下に斬ると思い定めた闇の裁き人達が登場する。 人、これを呼んで闇奉行という。 ("長崎犯科帳" OPナレーションより)  萬屋錦之

エッセー 「70年代を代表するディストピアSF大作 "未来惑星ザルドス"」

 ショーン・コネリーが赤フン一丁で頑張っている幻のSF大作、それが1974年製作のイギリス映画「未来惑星ザルドス」である。  当時、赤絨毯のテアトル東京(京橋)に観に行った。  2293年、人類は不老不死の「エターナル(Eternals)」と有限の生命時間(要は普通の人間)の「獣人(Brutals)」が存在していた。  「獣人」は荒廃した土地に住み、理想郷「ボルテックス」に住むエターナルのために食料を生産する奴隷であった。  ふたつのグループ間の接点は「ザルドス」とい

エッセー「映画 "ブリット" '68フォード・マスタング VS '68ダッジ・チャージャー」

 1968年に製作された刑事アクション映画の最高峰「Bullitt(ブリット)」。  スティーブ・マックイーンの代表作とも言えるこの作品のもう一人の主役はディープグリーンの1968年型フォード・マスタングである。  坂の街・サンフランシスコで繰り広げられる壮絶なカーチェイスは、その後のアクション映画に多大なる影響を与え、未だその迫力を凌ぐ物は皆無と言えるほどの名シーンだ。  殺し屋の乗る1968年型ダッジ・チャージャーを発見し、2点式シートベルトを締めてカーチェイスに臨

エッセー 「”男達の挽歌Ⅱ”に見る殴りこみの美学」

 「義」と「信念」を貫くため、そしてなによりも「けじめ」をつけるために男たちは再びその身を激闘の中へと投ずる。  1986年、香港フィルムノワールの傑作としてハリウッドをも驚愕させた「男たちの挽歌」。その完結編として87年に製作されたのが「男達の挽歌Ⅱ」である。  京劇出身の演技派ティ・ロン、熱血漢を演じさせたら右に出る者はいない亜細亜巨星チョウ・ユンファ、そして繊細なマスクの内面に鋼のような強さを秘めたレスリー・チャン。  男達が熱い! 美しい! 神々しい!  巨悪