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文章に正解はありません。どうか、書くことを楽しんで 【アスエコ 未来教室 SDGs 岡山】

2021年3月初旬。
私はけっこうな量の文章を前に頭を抱えていました。

中学生が書いた受講講座の感想文。いわゆるイベントレポートですね。何を聞き、何を感じ、何を考えたか。ひとつの講座にA4が2枚綴り。そしてそれが5講座 × 14名分。この文章にアドバイスが欲しいとの依頼をいただきました。

さて、どうしよう。

預かった文章の全てに目を通し、見えてきたものがあります。当たり前ですが、同年代とはいえ個々で文章量、視点、なにより筆力が違う。しかし「筆力の違い」は決して能力の優劣ではありません。この年齢の子どもたちは、自分の考えや想いの文章化に不慣れなだけ。加えて、学校での提出物の書き方を無視できず、どうしても「無難な感想文」に仕上げる習慣がついている、それだけのことなんですね。

★★★

岡山にある「環境学習センター アスエコ」の柏原さんから「中学生にライティングのアドバイスをしてほしい」と相談があったのは2021年の1月のことです。

アスエコってなに?

ホームページより抜粋
アスエコは、見て、感じて、気づいて、行動に移すきっかけとなる場を目指しています。
アスエコは、環境の大切さを知るために、子どもから大人まで楽しく学べる環境学習施設です。
地球や地域の環境について、見て、感じて、気づいて行動に移してもらうためのきっかけとなることを目指しています。また、講師の派遣や環境情報の受発信、イベントの実施など、様々な事業を展開しています。

アスエコは「岡山でSDGs学習をやるならまずはアスエコへ」とうたわれるほどの、SDGs学習の先駆者。様々なワークショップや講座を企画し、2020年秋から2021年春にかけては「未来教室」という中学生向けの環境学習教室の第一期を開催しました。

未来教室ってなに?

環境学習センターの講座ですが、未来教室は地球の環境問題だけに特化しているわけではなく、世界情勢から発生する数々の問題点、それらを日本へ、地域へ、そして自分ごとへ引き寄せるには? に焦点を当てたもの。いわゆる、「自分で考えて行動する」ためのレクチャーが目的です。しかし、決して「こうすべき」を押し付ける場ではなく、多様な生き方をするオトナと知り合い、そして様々な話を「聞き、考える経験の場」を提供したい、この講座にはそんな想いが込められています。

全6回講座のうち5回は、岡山で活躍するオトナを招き、活動内容とその活動の起因、現在の問題点などを話してもらう場に。中学生には、「問題解決のための糸口」を探ってもらうのが目的です。しかし、必ずしも最適解を出す必要はありません。自分たちがどう暮らせばその解決へ近付けるのか? と色々な事象を自分ごとへ引き寄せ、解決策を打ち出す練習につなげるのです。

私は、中学生が書いた第5回までの講座の感想レポートを預かりました。

主催者の柏原さんいわく「もっとこう…うーん、なんというのか、未来教室は決して『学校』じゃないので子どもたちに文章を自由に書いてほしいんですが……それをどう伝えてよいのかわからないんです」

成程。

柏原さんからお誘いを受けたとき、私は少々悩みました。
普段から「主語は小さく。半径3メートル」を公言し、まずは自分の目の前のひとを幸せにしようと心掛けている私が、岡山のSDGs学習の先駆者であるアスエコさんに出入りするなぞ、そんなことが許されるのかしら……

もちろん、SDGsがなんたるかは理解しているつもり。この時代のライターたるもの、仕事をする上でSDGsを避けて通るわけにいきません。それなりに本を読んだり話を聞いたり。しかし17の目標に頷きながらも、MDGsでやり残したことを、SDGsにすり替えて世界的なキャンペーンを打っているだけではないかと、懐疑的な思いもちらほら。天邪鬼なもので。

一昨年あたりから企業も公も枕詞はSDGs。合言葉のようにその言葉を用いて、エコやサスティナブルと商品やキャンペーンを次々と開発&発売して購入を促し、さらに、学校や自治体からはSDGs関連のお知らせやイベントの大量の紙のおたよりが届く。私の半径3メートルで起こるSDGs活動は、どこに重きを置いているのか分かりかねていました。

しかし、未来教室の「大きな課題を自分ごとに引き寄せる」という考え方を知って、私は浅はかな自分の懐疑心を改めました。さらに柏原さんの「未来教室は決して『学校』じゃないので」の言葉に共感し、子どもたちにライティングの話をしようと決めたのです。

「大きな課題を自分ごとに引き寄せる」
そんな練習をしている子どもたちが、自分の内なる思いを言語化し、さらにそれを世の中に発信する。主語は「わたし」で。これなら、私が抱いている「主語は小さく」に沿った話ができそうです。

★★★

「文章を自由に書いてほしい」

中学生には難しい、「自由に」
わが子の話ですが、「目立つから変なことしたくない」と発言することがしばしばあります。学校生活においては、「見えない枠」を自分で設定し、そこからはみ出さないようにと無難な言動におさめておこうとしている様子。個々の性格によるものだと言ってしまえばそれまでですが、そうではない一因もありそう……と、それはさておき。

文章においても同様で、無難にまとめるのはもちろん、「どう書いたら大人が喜ぶか」そんな意識も見え隠れ。読書好きかつ文章を書き慣れている子どもなら、無意識に文章で「エモい」を体現していることもあります。

「もっと自由に書いてもらうには」

さてどうしよう?と、このnoteの冒頭のくだりになったわけですが、この時点でやっと私は気が付きました。

ものすごくハードルの高い依頼ではないか…?

文章の構成とは?
読みやすい文章とは? 
こんな話ならいくらでもできますが、「もっと自由に書いてもらうには」なんて、好きにせえとしか言いようがありません。しかも中学生の文章力には個性と力量の違いがあります。14人の耳に届く、共通のライティング話なぞあるのでしょうか。

そしてなにより、今回のライティング話は未来教室の当初の予定になかったものです。講座の〆になる第6回は1~5回の総まとめで、未来教室のスタッフさんと中学生の皆さんで完結するはずでした。第一期を〆るにあたり、スタッフの柏原さんが、凝り固まった中学生の文章に何かできないかと、私に依頼してくれたのです。

と、いうことは

ということは、ですよ?

「クニさん、文章の書き方を教えてください」
中学生の皆さんの誰ひとり
私にこんなことを望んでいないわけです

怖くない?
彼らの誰ひとり「ライティング」を目的に集まっていないんですから。ライティング講座に集まる聴衆とワケが違うのです。

そこへ追い打ちの報告。頭を抱えていた私に、受講生の中学生のリアルな声が届きました。

「ライティングの話? どうせ、国語の授業みたいなやつなんでしょ?」

詰んだよ (∩´∀`)∩!

と、これは冗談ですが。こうなったら退屈にさせてなるものかとやる気が湧きますね。私は、ある程度骨組みにしていた「人に伝わる文章のコツ」の45分間の構成をバラシて、タイトルを見直しました。

文章に正解は

「文章に正解はない」

ここから始めましょう。
10年以上ライティングの仕事をしてきた中で、私がいつも心に留めているフレーズでもあります。誰かの心に届くなら、形式など関係ありません。ましてや中学生なら、形式や決まりなぞ、いつか大人になって「仕事」をするようになってから覚えれば済む話です。どうしたら伝わるのか? という話は「好きに書いていいんだよ」を前提にしたあとに話すことに。

「文章に正解はない」のエッセンスを入れつつ、まずは中学生のレポートにコメントを入れました。

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・長い文章を書き慣れている人
・読書感想文のようにあらすじ(講義の内容)をなぞる人
・箇条書きの人

文章の個性は、本当に千差万別。中学生の皆さんが書いた様々な形の文章に感想とアドバイスを返すには、かなりの読み込みが必要でした。

私がコメントを入れるときに決めたのは、レポートの文章が長くても短くても箇条書きでも、どんな形であれ同じ熱量で返すこと。SDGsが掲げる「誰ひとり取り残さない世界」の考えを、私なりに捉えた結果です。自分の考えが他者に届く喜びを味わい、書くことに楽しみを見つけてほしい、私のコメントが彼らの「書く楽しさ」に繋がれば、大人になってからも自分の指針を探るときにきっと役に立つはず……そうなれば、こんなに嬉しいことはありません。

コメントアップモノクロ

書き込みをしているうちに楽しくなって、自分でも思った以上にボリュームのあるコメントに…。まずは私が読んでどう感じたか。そして「もっとコレ知りたい」と心が動いた箇所はどこか。さらに、その部分を深掘りして書くためのちょっとしたコツを。
誤字脱字や誤用、文法などには一切ふれませんでした。それは大した問題ではないのです。正答が明らかなものを指摘しても、それは単なるテスト勉強と変わりません。今回は「あなたの考えがもっと知りたい」という観点を元に、コメントを入れました。

★★★

講座当日、「文章に正解はない」をスクリーンに映すと、彼らの頭の上に「なんだろ?」と疑問符が。そうそう、緊張しなくていいですよと思いながら、私は話を始めます。

「俳句には五七五の決まりがあるけども、決まりがあるなかでさらに面白いものを作りたい、定型に縛られたくない人たちが『自由律俳句』を生み出して、ね。もう、そうなると決まりも何も関係ないですよね。人の心に届くなら、文章に正解なんてないと私は考えているんです」

こちらを見つめる幾人かの中学生の眉間が、パッと開いた気がしました。

感想レポートは「○○と思いました・感じました」の形じゃなくてもいいんです。自分じゃない誰かの視点になったり、小説仕立てにしたりしてもいい。そこにありえない物語があったとしても、未来教室のスタッフはそれを題材に対話を始めてくれるはずです。

私に託された時間は45分間。たった45分ですが、これから私が話すことが、最後のレポート書きの役に立ちますように……と45分を終えました。

こちらは、アスエコさんが書いてくださった当日のレポートです。

文章が書けると、きっと人生が楽しくなります。人に伝わる文章を書くには、自分の思考を見つめなくてはなりません。中学生である彼らには、これから先、生活の中で文章を書く機会が幾度となく訪れるでしょう。勉強や仕事以外でも、インターネットでも気軽に自身の意見や想いを発表できる世の中です。

今回の講座の内容とレポートへのコメントで、「書く」に少しでも前向きになってくれたでしょうか。そして書き物を前に面倒だなあと感じたときに「あのときのライターが、こんなこと言ってたっけ」と思い出してもらえたら嬉しいです。


お会いできたみなさん
どうか、書くことを楽しんで


アスエコ未来教室 第二期も始まっています。


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