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伝わらなかったモノたちの死骸

伝えたいことが伝わらない。

思い返せば6歳の頃。
たまたま1人で留守番してた。そのときクリーニング屋のお兄さんが洗った父のスーツを届けてくれた。ぼくは「少し待てば大人が帰ってくるよ」「その間は楽しませるよ」という趣旨のことを拙い言葉で伝え、幼稚園であったこと、最近発見したこと、珍しい虫の話をずっと話し続けた。

母が帰ってきて、ホッとしつつ、何か言い放ちながら去っていくお兄さんが見えなくなるまでずっと手を振っていた。



「あの人の言った『小生意気』ってどういう意味?」


そんな僕の質問に困ったようすの母。



小学校に上がり、「小生意気」の意味も知り、むしろそれを体現するようになった頃、幾度となくこの時の話を母から聞いた。

「帰ってきた瞬間、『小生意気なガキですね』って言われたのは流石に衝撃だった」

そりゃそうだ。
僕だって自分の子供がそんな事言われたらちょっと固まる。
何なら怒りさえする。
母にとってもおそらく強く印象に残ってるんだろう。親戚や友人関係など僕を紹介する場面でのエピソードトークとして上記はよく活躍していた。


6歳の頃の経験(正確に言うと、その後のエピソードトークによる上書きによる上書き)によって、僕は口達者になった。

「やまだくんは口から生まれてきたんだね」

幾度となく言われた。
今ならわかるのだが、あれは嫌味だ。おそらく。ただ、小学生の頃の僕にとってその言葉は誇りだった。

「そう!すごいでしょ!」

そんな風に返していた。

伝わらないなら、伝える手段を増やせばいい。そう考えて本を読むようになり、知らない言葉を見たら周りの大人に聞いた。映画を見て、映画の途中で意味がわからなかったところを聞くという邪魔をしつつも着実に言葉を増やしていった。


ただ、中学の頃はうまく行かなかった。
正確に今の気持ちを伝えようとすればするだけ誤解され、誰かと話すことが怖くなった。「意味わからん」「屁理屈」「そんな事考えてどうするの?」それらの言葉一つ一つにとても傷ついた。ただ自分の心に浮かんだ感情や、不意に気づいたことを誰かに伝えたいだけなのに。


そんなこと言ってても人生は好転しない。
高校の頃からは、相手に合わせることを覚えた。

相手が今一番ほしい言葉を、ほしいタイミングで渡す。
傷つきやすいメンタルと、磨き続けた言葉が融合し、思った以上に結果がでた。
◯ni組という謎の組織を作り、色んな人と話す機会をつくり、その一つ一つで実践と改善を繰り返していった。あのときは極まってたと思う、我ながらね。

一方で何も満たされてない日々だったとも言える。
実践で磨かれたものは、本当にほしかった「伝わるという体験」をくれなかった。そりゃそうだ、相手が欲しい物をあげてただけなんだから。


その頃から僕は文章を書くようになった。
もやもやすることがあるたびにメールの下書きは増えていった。どこにも出さない誰かに伝わることなんて無視した、ただただ伝わらなかった言葉たちの死骸。

mixiやブログなど個人でも文章を公開する場所が生まれ、僕は少しずつ自分の死骸たちを公開するようになった。もちろん匿名で。自分でドメインも取得し、「きりく◯ぶろぐ」というブログを開設し、死骸たちに陽の光を当てていった。
こそこそやってるブログだったけど、たまに「はてブ」が沢山ついて多くの人に見てもらえた。


それでも

「伝えたいことが伝わった!」

とはならないところが僕の良くないところ。「伝わった」って感じるよりも、「伝わらなかった」と凹むことのほうが多かった。「どうしてそんなふうに捉えるの?」「そんなこと言ってないじゃん」「変に切り取らないでよ...」そんなことを僕の中の6歳の男の子が誤解されるたびに叫んでた。



いつしか僕の書く文章は、「わかりやすい有益な情報」に寄っていった。誰もが感謝するからね!それでいいんだ!いいんだよね...?

言葉にして発しても、文章にして公開しても、形にした瞬間3%はずれている。それは自分自身の伝えたいことと。受け取る人にとってはその何倍もずれている。


伝えたいことは伝わらない。
6歳の頃からずっと願って挑戦し続けた僕はそんな風に結論付けた。



今ぼくは、色んなものを創っている。
ちょっと普通と違うところは、それが学校だったり、VCだったり、会社だったりするところ。「学校行かなくても楽しいよ」「瀬戸内にかっこいいスタートアップめっちゃあるから」「生まれるはずの『もう1作品』を創りたいんだよね」。

伝えたいけど伝わらず死骸と化してしまっていた多くのことを、1つずつあらゆる方法を駆使して形にしている。



もしかしたら僕はまだ諦めてないのかもしれない。
伝えることを。


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