2年間で急成長した天才カストロ。その彼がしてしまった本当の失敗とは?【HUNTER×HUNTER】
2年あまりの間に強化、具現化、操作の3系統を高い水準で身につけ、戦いの中に落とし込むことに成功したカストロ。
まるでイケてる創業メンバー、高いバリュエーションでの資金調達、流行のマーケットの3つを兼ね備えたスタートアップのようです。
でも、彼は踊り狂って死んでしまいました。
カストロはなぜヒソカに負けたのでしょうか?
カストロの敗北からビジネスの真髄を覗きにいってみましょう。
敗因❶容量のムダ使い..ではない?
直接の対戦相手だったヒソカはカストロの敗因を「容量のムダ使い♥」と指摘しています。
しかし、本当にそうなのでしょうか?
たしかにカストロは強化系であるにも関わらず、相性の悪い具現化系と操作系の能力駆使した『ダブル』を身に着けました。
それは習得にあたっては不利な要因です。しかし、実際にカストロは『ダブル』を習得できています。つまり、『ダブル』は不利であったとしても、ヒソカ戦の敗因とはなりえない。
問題の本質はもっと深いところにあったのではないでしょうか。
そもそも念の6系統は、生来のものである一方、「発」は総合芸術、その人が生きてきた体験や環境によっても形作られます。
であれば、強化系であるカストロの『ダブル』は彼の体験に基づくものだったのでしょう。
死んでしまった双子の兄弟がいたのかもしれません。
一人では耐えられない幼少時代があったのかもしれません。
それゆえに『ダブル』自体を否定してしまうのは早計です。
たしかに具現化系、操作系と生来の強化系の相性が悪いことは認めざるを得ませんが、それゆえにそれら3つの能力を伸ばしている念能力が少ないのもまた事実。カストロは特異な能力者になっているともいえます。
カストロに必要だったのは、その能力を最大限に活かす努力。
ダブルに攻撃させて自分は影に隠れてたまに攻撃しに行くだけがほんとに最適解だったのでしょうか?
戦闘シーンを振り返ってみても、虎咬拳と手足の一部を増やしたダブルはうまくワークしていました。カストロはその部分をもっと最大化すべきだったのではないでしょうか?
戦闘において手足が一時的にでも増えることは戦術の幅を広げ、かつ、見破られたとしても弊害の少ない、彼にあった能力といえるでしょう。そうであるにも関わらず、カストロは『ダブル』の使い方を限定的にしてしまいました。
このことは、ビジネスにおける「資格」の取り扱いについて非常に多くの示唆を与えてくれます。
弁護士や会計士のような「資格」は、先人たちの積み重ねのおかげで、その資格を取得していることだけをもってプラスの効果を有します。また取得することに一定期間の努力が必要となります。それゆえに、「資格」取得後、有資格者たちは「弁護士として何をするか?」「会計士としてどう生きるか?」と考えてしまいます。しかしこれは、取得してしまった「資格」に振り回される生き方です。カストロが『ダブル』に振り回されているのと同じです。
せっかく『ダブル』があるんだから、自分と同じ存在をもう1つつくって操作しよう。ではなく、ヒソカに勝つために『ダブル』が使えないかな?です。
せっかく「資格」があるんだから、その資格を活かして生きていこう。ではなく、やりたいことを実現するために「資格」が使えないかな?です。
それは、小説を書いて生きていきたいから、弁護士資格をうまく使って、知的財産に関するミステリーを書こう、とか、人の集まりがどんな機能を持つか調べるのが好きすぎるから、会計士の資格をうまく使って、企業についてのクイズを出そう、とかとかです。
本来行うべきは、自分の最大化。やりたいことをやることだし、目的があるならそこに向かうこと。
にもかかわらず、身につけてしまった能力に振り回されたカストロは、ぼくたちに「能力」や「資格」や「才能」も自分自身の1つの要素に過ぎないことを教えてくれました。
敗因❷希望的観測。敵を見誤った。
2年前、ヒソカの洗礼によって「念」を知ったカストロ。「ダブル」を身につけるなど、自己の能力を上げることはしっかりと行ったと言えるでしょう。
一方で肝心の対戦相手「ヒソカ」の分析を怠っていたと言わざるを得ません。
3ヶ月に1度戦う必要のある天空闘技場において、2年間で少なくても(不戦敗があっても)4,5回はヒソカは戦っています。
そこで「伸縮自在の愛」や「薄っぺらな嘘」を観ることはなかったのでしょうか?
仮にそこで観ることがなかったとしても、自分が「ダブル」を覚える過程で当然にヒソカも何らかの能力を持つことに思い至るはずです。
能力がはっきりしていたらその対策を行う、能力がはっきりしないならそれが判明するまで戦いを延期する。それらのことは当然に行うべき事柄で、自己の能力をあげるだけで目的が達成できるはずだというのは希望的観測にすぎません。
これは、ゲンスルーと戦ったときのゴンたちと対照的です。彼らは自己の今できることと相手の能力をしっかり分析した上で勝てる戦いの場を作り出した。
このことは起業や新規事業開発におけるユーザーヒアリングについて非常に多くの示唆を与えてくれます。
アクセラレーションプログラムや起業の壁打ちで事業のアイディアを聞く際。「うんうん、素晴らしいですね。実際に想定されるユーザーさんに話を聞いた際どうでした?」と言うと、「いえ、まだヒアリングはしてません」と言われることがあります。
これは勝手に「相手」をつくりだし、きっとこういう人はこういう物が欲しいはずだと思い込んでいるだけです。頭の中では完璧にロジックが出来上がっていたとしても、一度でも誰かにヒアリングしたらその前提から崩れることなんてよくあります。
ヒソカを見ずして、ヒソカに勝つ方法なんて思い浮かばないことなんてわかるはずなのに、僕たちはユーザーを見ずして、ユーザーの欲しい物を作ろうとしてしまったりします。
自分の能力だけ高めればきっとうまくいくと考えていたカストロの敗北は、僕たちに相手と向き合うことの大切さを教えてくれました。
敗因❸オリジナリティへのこだわり。
洗礼によって「念」を覚えたカストロには師という存在はいませんでした。それゆえにヒソカの隠を凝で見抜くことができず、(ヒソカの誘導がうまかったとはいえ)戦闘中にヒソカの念を見破ることができませんでした。
仮にビスケが師だった場合、「反射的に凝をすること」は戦闘の初歩であることを教えてくれていたはずです。
カストロは念を覚えて2年間、独学という選択で念を身に着けていました。しかし、この世界に念があることがわかった以上、自分よりも先に念を覚えている存在がいることには当然思い至ります。
にも関わらず、それらの人を師にすることなく自分のやり方にこだわってしまいました。
このことはビジネスにおけるオリジナリティへの固執について非常に多くの示唆を与えてくれます。
自分だけのモノ、やり方等、オリジナリティにこだわることは決して悪いことではありません。しかし、自分が今どうしても抜けることのできないと考えている課題や困難は先人たちがすでに解いているものであることがほとんどです。これはどれだけ時代が変わっても、人が人である以上同じ課題にぶつかった先人がいることはある意味では当然です。
『ダブル』もいいでしょう。深い深い原体験と結びついているのであれば、その能力を使ってしまうことはやむを得ないのかもしれません。しかし、こと念での戦闘に関しては先人はたくさんいたはずです。
その戦いの定石を学ぶことは、自分のオリジナリティを否定することにはなりません。身につけた定石の上に、自分自身を乗っけていけばいいのです。
にもかかわらず、それらの人から学ぼうとせず、自分のやり方にこだわったカストロは、守破離を無視し、型破りのつもりで型無しをやってしまった。そう言えるかもしれません。
オリジナリティにこだわって敗北したカストロは、欲しい物のために誰かに頭を下げることの大切さを教えてくれました。
おわりに
さらに深ぼってみましょう。
カストロはヒソカに負けて2年間をどう生きたのでしょうか?
カストロも馬鹿ではありません。
念の習得と戦闘での利用法、ヒソカの分析、メンターの必要性、そららに思い至らなかったとは思えません。
ではなぜ、それらを行わなかったのでしょうか?
プライド?
たしかにそれもあるかもしれません。
でもぼくは、少し違うのではないかと思うのです。
カストロは自分自身の願いを「ヒソカに勝つこと」だと思っています。
だけど、彼の本当の願いは「ヒソカに認められること」だったのではないでしょうか。
エリートで外見もよく努力もできる。
そんな彼がヒソカに完膚なきまでに叩きのめされた。
たしかにプライドは傷ついたでしょう。
だけどおそらく彼は人生で自分が認識する限り初めて「認められなかった」。そのことが強烈な願いを彼の中に作り出した。
カストロが「ヒソカに勝つこと」よりも「ヒソカに認められること」を心のなかで大事にしていたのであれば、ヒソカとの戦いで身につけた念にこだわり、ヒソカの能力について調べることもせず対等に、メンターなく自分自身だけで2年間を過ごしたこともうなずけます。本人に自覚があったかどうかはともかく。
「ヒソカに勝つ!」
と強く言ってたカストロ。
本当の願いは
「ねぇねぇ僕こんなにすごくなったよ!ヒソカ!みてみて!」
だったのかもしれません。
©『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博)
次回は、
あたりを書いていきます。
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カストロ編は下記2冊
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