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高校生の政治への関心は?「リツイート」や「いいね」はしていいの?もうすぐ民法改正後初の国政選挙。学校の様子や、子どもたちへの注意点を聞いてみました。【神内聡先生インタビュー第2回】

くもん出版noteでは、弁護士・社会科教師であり『大人になるってどういうこと? みんなで考えよう18歳成人』の著者である神内 聡 先生に、1年にわたってインタビューを実施。「18歳成人」に関する話題を切り口に、保護者や学校の先生の視点から質問をし、アドバイスをいただきます。(全5回)

今回は、「第26回参議院議員選挙」を迎えるにあたり、生徒たちの様子やトラブル・注意点について聞いてみます。(前回はこちら

高校生の政治への興味は?

<政治への興味は家庭環境にもよる>

――いよいよ成年年齢が引き下げられて初めての国政選挙です。高校生の関心は高いのでしょうか。

神内:
残念ながら、盛り上がっている感じはありません。18歳選挙権が初めて導入された2016年参院選の投票率はとても高かったのですが、その子たちも年齢を重ねるにつれて投票率が下がる傾向です。

選挙にいかなかった生徒に理由を聞くと、「行っても誰に投票すればいいかわからない。」という意見がありました。候補者が乱立していることが選挙に行かない理由の1つかもしれません。

――私が子どものころは政治について教えてもらうのがタブーというか、学校であまり聞いてはいけないことだったという記憶があります。

神内:
確かに、そういう雰囲気が昔はありましたね。口に出さない・子どもに教えるべきではないという先生はいました。ただ、現在はそのような先生は少ないと思います。その一方で海外の先生のように、自分の信条を話すのは抵抗がある先生はいると思います。

――やはり政党名などを出して授業をすることをためらわれるのでしょうか。

神内:
政治的中立性の問題を気にする先生もいると思います。
「政党を紹介するのであれば一部だけでなく全ての政党を紹介すべきである」といった指導法を記載する手引書もありますが、一部の政党しか紹介しないことが直ちに政治的中立性を侵すかどうかはすぐに判断できないと思います。

――生徒の投票率や政治への関心をさらに高めるにはどうしたらいいのでしょう。

神内:
学校で政治教育に力を入れて子どもの関心を高めることは大切なことですが、どうしても限界があります。本当に投票率や若者の政治的関心を高めたいのであれば、学校と家庭の両輪で施策を行う必要があると感じます。

私自身、いろいろな生徒を見てきて、政治的関心があるかどうかは、家庭の影響が大きいと感じます。つまり、親の政治的関心が高いと子どもの政治的関心も高い傾向があります。

海外に目を向ければ、家族と政治の話をするのは珍しいことではありません。海外に留学した子に話を聞くと、「アメリカのホストファミリーの食卓では、政治の話が自然に出ていた。父親と母親で支持政党が違っていたのに驚いた。」といった感想を聞くことがあります。日本でも政治の話題が家庭の中で出てくれば、生徒の政治への関心や社会参画の意識はずいぶんと変わってくるはずです。

▲模擬選挙を行う学校あります。神内先生によると、選挙の仕組みが実感できる利点がある一方、組織票・圧力団体についても説明を補足する必要があるとのことです。

<校則で政治活動を禁止できるか>

――逆に、生徒の政治活動を禁止する校則などは作ることができるのでしょうか。この辺りは学校に裁量があるのでしょうか。たとえば「熱心な生徒が学内でビラを配る」といった行為に関して、学校はどのように対応できますか。

神内:
選挙権の年齢が引き下げられたとき、文部科学省は通達を変えています。(※1)
これまでは、高校生の政治活動を禁止していましたが、必要かつ合理的な範囲の政治活動は許されるとするスタンスに変わっています。

校内であれば「政治活動を禁止するということ」は許容できるかもしれませんが、校外での政治活動を禁止することは難しいと思います。そもそも選挙権を持つ生徒に対して、政治活動を一切禁止する校則を作っていいのかという議論もあります。

ただ、有権者とはいえ、成績が落ちる一方なのに政治活動に熱を入れる生徒に対しては、教師や学校が然るべき指導をすることは教育活動として必要かもしれません。

いずれにせよ、高校生が政治に関心を持ち、どんどん議論すること自体は良いことです。いろいろな考え方があることを示しつつ、興味を引き出し、厳しいルールをことさらに強調して政治活動を委縮させてしまうといったことは避けたほうがいいかと思います。

(※1 平成27年10月29日「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動について(通知)」の「第3高等学校等のせいとの政治的活動」に、学校は政治的中立性の確保が求められること、公的な施設であること、また校長は生徒を規律する包括的な機能を有することから「高等学校の生徒による政治的活動等は、無制限に認められるものではなく、必要かつ合理的な範囲内で制約を受けるものとされる。」とある。

参考:文部科学省HP
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/attach/1365151.htm

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1366767.htm


【学校で選挙違反が続出するかも】

<未成年者は特に注意>

――高校では成年と未成年が混在します。選挙において何が懸念されますか。

神内:
本書(p120)にも書いた通り、未成年者が選挙運動は禁止されていますが、徹底されていないというのが実情です。

選挙運動とは法律上「誰かを当選させるための運動(※2)」とされています。たとえば、クラスメイトの成年者が未成年者に「こんな候補者のおもしろいツイート(Twitterで行われる投稿のこと)があるよ」と伝えたとします。もしこれを未成年者が別の友達に流すと選挙運動になり、違反となってしまうのです。

また、各SNSについている「グループ機能」にも注意が必要です。これは登録されたメンバー同士で情報をやり取りする機能ですが、グループの中には成年者と未成年者が混在している可能性があります。
この中で、うっかり未成年者が特定の候補者に有利なコメントをすると、やはり選挙運動になってしまいます。グループ内だからと安心してはいけません。誰かがやり取りが流出させるかもしれませんし、警察なら簡単に捜査できます。
ただし、ある候補者に投票しないように呼び掛けるといった「誰かを落選させるための運動」は選挙運動ではありませんから、未成年者でも可能です。候補者への誹謗中傷にならなければ問題ありません。

――最近、さまざまなSNS媒体で政治的発信がされています。たとえば、SNSでよく使われる「いいね!」のような、記事への賛同を表す反応も選挙活動に該当するのでしょうか。

神内:
「いいね!」のような機能は、直接情報を拡散するような機能ではありませんが、選挙運動に該当する可能性もあります。「いいね!」を押した意味が、特定の候補者を当選させるために行った行為だと判断されることも想定できます。

また、有権者でもメールを使って投票を呼び掛けるのはNGですが、LINEを使って呼びかけるのはOKです。「なりすまし」がメールのほうが多いというのが理由だそうですが、説得力がありません。公職選挙法も時代の変化に合わせて見直していく必要があると思います。
(※2 総務省HPに「凡例・実例によれば、選挙運動とは、『特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為』とされています。」とある。
参考:https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo10_1.html


<「知らないことは話さない」が鉄則>

――未成年が選挙運動を行ってしまうという点以外に、注意すべき点はあるのでしょうか。

神内:
選挙期間だけではありませんが、フェイクニュースや一部を切り取り、編集した動画の発信によって、誤った情報を信じてしまったり、拡散してしまったりすることがあります。
自分がよく生徒に言っているのは、「知らないことは話さない」ということです。フェイクニュースの在り方は海外でも、子どもにどんな判断力を身につけさせるかという部分で、高い関心があります。

――大人でも引っかかってしまうことがよくあります。

神内:
生徒たちには、「研究の世界では、第三者が裏を取って実験を再現しないと表に出せない」とか、論文の査読制度について伝えるようにしています。査読とは、論文が学術雑誌に刑される前に他の専門家が妥当性を確認する仕組みです。海外だと、論文投稿をする高校生も多いですが、日本では少なく、裏付けや第三者による確認というプロセスを理解することが疎かになっているのではと思っています。
ただし、一般の方だけではなく、情報の裏づけをとるということの大切さを知っているはずの専門家や研究者ですら、誤った情報を拡散していることがしばしば見られるのは頭の痛い問題です。大人もフェイクニュースに引っかかってしまうのは、このことも一因でしょう。

――円グラフなどがあるだけで、信じ込んでしまっている気もします。

そのような授業も扱いますね。標本数がおかしいとか、標本にバイアスがかかっているとか、正しい調査方法とか……こんな話をしていると、憲法改正の要件を教えているときに、生徒から「最低投票率がないことはおかしい(※3)」という意見が上がったりしてきます。

そういう意味で、これからは教科の枠を超えた判断力をつけていくことが大切になってきていると思います。

(※3)最低投票率を決めておかないと、国民1人が投票し、そのほかの国民が全員棄権しても過半数を超えたと判断されてしまいます。

今回は選挙に関連して、高校生の関心の度合いや、注意点についてお聞きしました。次回は、18歳成人とAV問題についてお話を聞いていく予定です。

神内 聡
1978年、香川県生まれ。弁護士、兵庫教育大学大学院准教授。東京大学法学部政治コース卒業。
同大大学院教育学研究科修了。中高一貫校の社会科教師として勤務しながら、
各地の学校のスクールロイヤーとして活動している。
テレビドラマ「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」の法律考証や、「公共」の教科書執筆なども担当。著書に『学校弁護士』(角川新書)、『スクールロイヤー』(日本加除出版)など。

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