人間とはよくできた生き物だ|第6話 つぶやく言葉はわたしに届く?『ロビー』に届く?
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「はい、む・・・」
「この間印刷納品したカタログだけど、スペックに間違いがあったってクライアントから連絡あった。詳細は今からメールするけど、すぐ経緯追って、どっちのミスか連絡して」
ツーツーツー。
(最悪だ・・・)
いつも雑用ばかりさせられているにも関わらず、こういう時だけは責任を問われる。
いや、もちろん制作における責任は自分にあるのだけれど、それならばそれでもう少し普段の労を労ってくれてもいいのではないだろうか。
とは言え、まだこちらのミスと決まった訳ではない。
(どうかクライアントの指示ミスでありますように)
わたしはのろのろと立ち上がり、カギのかかったラックへ行き、たくさんの封筒の中からひとつを取り出し、デスクに戻った。
問題のカタログのカンプとクライアントの赤字を出力したものだ。
校了した日付は5月20日。
おおよそ半月前だ。
(そうか、ロビーがやってきたのはこの頃だな)
気が付けばお腹を触っていた。
「ねぇ、このメール大丈夫なの?」
部長に声をかけられ我に返った。
営業から詳細がメールで送られて来ていたのだ。
こういう時だけ部長をCCに入れてメールを送ってくる。
「はい、さきほど電話で第一報は聞きました。今から経緯を追います」
「わかった。出来るだけ正確に追ってね。カンプだけじゃなくて、メールとかもね。きちんと報告できるようにしてね」
さすがに部長の笑顔ははがれていた。
「はい、わかりました」
(今日はお昼抜きかな)
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昼ご飯を食べずに経緯を追った結果、制作側のミスであることが判明した。
デザイナーが違う製品のスペックを間違えてコピーしてしまっており、それに誰も気付けなかったのだ。
今日中にデザイン事務所と校正会社から経緯報告をあげてもらい、それをもとわたしが営業に対して経緯報告をし、それをもとに営業がクライアントに経緯を報告することになった。
その手はずを整えた頃にはすでに夕方になっていた。
(今日まだ何もしていないな)
今日やるはずだった他の仕事は停滞したままだった。
けれど、お腹が空いてどうしようもない。
(とりあえずコンビニで何か買って来よう)
そう思いデスクから立ち上がると、立ちくらみがしてまたイスに座り込んだ。
(目眩がする。ロビーだ。ロビーがいるからだ)
お腹をさわってみた。
(こんなのイヤだよね。でも大丈夫だよ)
何が大丈夫なのか。
わからなかったけれど、自分に言い聞かせるように、大丈夫だよと言い続けた。
もしくは、自分の中にいる異生物だったはずのものに。
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つづき
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