人間とはよくできた生き物だ|第8話 始まるの?『ロビー』

前回のお話はこちら。

(・・・いや、冷静に考えて私のお腹の中のものが『世界の終末』なんかに警鐘を鳴らせるはずないよね)


そんな立派なものは私のお腹にいるはずがない。


(でも、もしかしたら・・・)


「先輩?先輩?大丈夫ですか?何か疲れてますか?」


後輩に話しかけられて、はっと我に返った。


「あっ、ごめん。大丈夫。ありがとう」


「本当ですか?あまり無理しないでくださいね。最近暑くなってきましたし」


後輩はそう言いながらいそいそとデスクの上の携帯やらを鞄に入れ始めた。


今からクライアントと打ち合わせなのだろう。


「ありがとう」


そう言って私もPCに向かった。


実はロビーが・・・なんて言っても仕方のないことだ。


それに今日は午後から打ち合わせが2本入っている。


それまでにスケジュールと見積を作らなくてはいけなかった。


スケジュールにいたっては、いくつかの状況を想定して3パターン作らなくてはいけない。


(スケジュールなんか作ってる場合じゃないのに・・・)


そう思いながらも、とりあえず作り始めた。

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「8月中に企画決定しないと納品間に合わないですよ」


「分かりました。ただ、こちらも色々と上に確認することがあるので、なるべく早くプレゼンをお願いします」


「いや、早くプレゼンするにしてもオリエンがないのでどうしようもないんです・・・」


ひとつの広告を作るにしても立場が違うと、考え方というか主張することが全く異なるのだ。


さらに、それぞれがそれぞれの立場を守るため「主張すべきことは主張した」というエビデンスを残すことが大切になって来る。


そのため打ち合わせは往々にして長引く傾向にある。


(あぁ・・・)


2つ目の打ち合わせが終わったのは19時だった。


クライアントを出るとすぐに営業が言った。


「もうさ、いいよ。こっちから提案しちゃおう。今日22時から打ち合わせは入れる?」


(出た・・・)


22時から打ち合わせだと終電では帰れない。


(タクシーか。こんなことしてる場合じゃないのに・・・)


*ファーン*


(だよね、そうだよね。ありえないよね。帰りたいよね・・・)


私はロビーも文句を言っているような気がした。


「・・・さん?聞いてる?打ち合わせ入れる?」


「あっ、はい。大丈夫です。伺います」


「じゃぁ、よろしく。僕は1本電話入れてから帰る」


「分かりました。失礼します」


私は駅まで1人で歩き出した。


(もしかして・・・)


気温はそこまで暑くはない。


(もしかして世界の終末っていうより・・・私のピンチに啼いてる?)


しかし、どこか青臭い草いきれの残り香を感じた。


(そう言えば最近体調も悪くないし・・・)


なるほど、夏はそこまで来ているのだ。


(ロビーが私に懐き始めた・・・?)


懐くという言葉が適切かは分からない。


*ファーン*


ただ、ロビーの啼き声はいつの間にか一層大きくなっていた。













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