人間とはよくできた生き物だ|第9話 ありがとう『ロビー』
前回のお話はこちら
以来、ロビーは私のピンチに警鐘を鳴らしてくれるようになった。
朝起きて、ギリギリの精神状態で電車に一歩入るとき。
見積に対して営業からつめられているとき。
疲れ切って夜中ベッドに入り目を瞑った瞬間。
(私、今ピンチだよね。でも、大丈夫だよ。ありがとう)
その角笛の音はだんだん励ましの音色にも聞こえてきた。
(ロビーだけだよ、本当)
いつだってロビーは私に寄り添ってくれている。
(早くロビーに会いたいな)
それは意外と早くやってきた
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(今朝は何だか身体がダルい・・・)
これはいよいよだ。
いや、いよいよなのだろうか。
分からなかったけれど、念のため仕事の前に病院へ行ってみることにした。
上司には病院へ行くため遅れる旨をLINEしておいた。
(何か気持ちも悪いな・・・)
さすがに体調が悪く髪の毛は巻けなかった。
(しんどいよ、ロビー)
・・・
そういえば今日は朝おきてからロビーが啼いていない。
(大丈夫かな。何かあったかな)
いよいよ不安になり、病院までタクシーで行くことにした。
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受付をすまし、診察室に通された。
「はい、こんにち・・・」
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『オエェ』
聞こえた瞬間口から真っ赤なものが飛び出して来た。
「あらあら、しんどいかな。ここに出して」
誰かがそう言いながらバケツを差し出してくれた。
背中もさすってくれているようだ。
とにかく私はムカムカとして、胃の中のものをすべ吐き出してしまいたかった。
『オエェ。。。ボッ、ボエェ』
涙が溢れ、喉が焼けるように痛かった。
『ボエ。。。』
ひとしきり吐き出し、少しだけ楽になった。
「はい、これで口をゆすいで。水もこのバケツに出しちゃって」
(あの看護師さんだろうか)
水の入ったコップを差し出してくれた。
「ずびばぜん。この間も。何から何ばでありがとうございばす」
涙と鼻水と吐瀉物でべちゃべちゃになりながらお礼を言い、口をゆすいだ。
「ん?はい、これも使ってね」
真っ白く清潔そうな腕にタオルがかけられていた。
(やっぱり美しい腕だな)
顔を見上げた。
「あっ、ありがとうございます。」
そこにいたのは別の女性だった。
しかも、安いキャバクラのイベントのような、ナースのコスプレをしていなかった。
「じゃぁ、先生を呼んでくるわね。待ってて」
(えっ、本物のナース?)
改めて周囲を見回すとここは別の病院らしかった。
(ん?どういうことだろう)
訳が分からない。
急に目眩がし目の前が真っ白になった。
(ヤバい、貧血だ)
ほとんど白くなった視界の隅でカーテンが開き、本物の医者のような医者がゆっくりと歩いて来る。
(あぁ、あぁ、ダメだ・・・)
そして座りながらこう言った。
(ダメだ!)
「はい、こんにちは。きみはね・・・」
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