人間とはよくできた生き物だ|第7話 何を伝えたいの『ロビー』
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「大丈夫、かぁ・・・」
今度は言葉にして呟いてみた。
(ダメだ、とりあえずお腹空いた。コンビニに行こう)
そう思った次の瞬間、突然お腹から音がした。
ホルンのようなユーフォニウムのような。
どこか北欧あたりで響いていそうな、角笛のような音が響いたのだ。
(ん?今お腹から鳴った?)
突然のことで、はっきりはしないけれど、どうもお腹から鳴ったような気がする。
(まさか・・・まさかだよねぇ)
・・・いや、おそらくまさかではない。
やっぱりここには紛れもない異生物がいる。
そう思うと、全身に虫が這うような嫌悪感が沸き上がり、とりあえずロビーのことは考えないようにした。
「コ・・・」
(コンビニに行って来よう)
言葉にしようとしてやめた。
いちいちロビーに反応されては困る。
大きくため息をひとつつき、
「よっこいしょ」
怠い身体を両手で支え、イスから立ち上がった。
*ファーン*
小さい小さい音だったけれど、ロビーが啼いた。
(あぁ、もう)
私は少し乱暴に鞄から財布だけを取り出し、コンビニに向かった。
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以来、ロビーはことあるごとに啼くようになった。
朝起きて、ギリギリの精神状態で電車に一歩入るとき。
見積に対して営業からつめられているとき。
疲れ切って夜中ベッドに入り目を瞑った瞬間。
そのほかにも、いろいろなタイミングでロビーは啼いた。
家にいるよりも、どちらかと言えば会社にいるときの方が啼いているように思われた。
さらに、その啼き声はだんだんと大きくなっているようにも感じた。
(今後どうなっていくんだろう)
歯を磨きながらお腹を触ってみたが、ロビーは啼かなかった。
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「ねぇ、今忙しい?」
今朝は久しぶりに後輩がいたので話しかけてみた。
やっぱりバリバリに仕事をしているものの、以前よりも服装がラフになっていた。
(少し肩の力でも抜けたかな)
ラフな格好でも後輩はとっても魅力的だった。
「いえ、大丈夫ですよ」
手を止めてこちらを向いてきたので、そのままで大丈夫だと言った。
「角笛ってあるじゃん。あれからどんなこと連想する?」
「角笛ですか?角笛ってあの羊とか追い立てる感じの?」
やっぱり後輩は手をとめてこちらに身体を向けた。
「そう、やっぱ何かそんなイメージだよね。いや、角笛って何かのメタファーだったりするかなって思って」
「はぁ・・・」
「ググっても出て来なかったからさ。いや、別にいいの」
「あっ、それなら」
後輩は自分のPCをタイプし始めた。
細い指だけれど力強いタイピングだ。
「あっ、やっぱり。これです」
彼女がPCのモニターをこちらに向けてくれた。
覗くとそこにはWikipediaの「ヘイムダル」のページが出ていた。
「北欧神話に出て来るヘイムダルっていう神様が角笛を吹くんです。光の神様ですね」
なぜかひとつどくんと鼓動がなり、息が苦しくなった。
「そうなんだ・・・。すごいね、そんなの知ってて」
言葉が上滑りしていた。
「えっ?何だっけ?ヘイム・・・?検索してみたい。もう一回名前言って」
「送りますよ。今送りました」
後輩から送られたメールにはURLだけが貼付けられていた。
「ヘイムダル。あー、世界の終末が来るときに鳴らすみたいです、角笛」
(世界の終末・・・!)
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つづき
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