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ハンググライダーがどうやって飛んでるかという話と、人生の軌道について。

大学生のときにハンググライダーをやっていた。田舎の山をときどき飛んでいる、三角形の翼のあれである。なお、怪盗キッドが飛んで逃げるときにも使っているが、ハングは小型のものでも重さ20kgとか畳んでも長さ5mとかあるのにどうやって持ち歩いてるんだよとか、街中は乱流だらけなんだから安全に飛べるわけないだろとか、ライセンス持ってるなら黒羽快人の名前がJHF(日本ハンググライティング連盟)に登録されてるんかとかいろいろ突っ込みどころしかなかったりする。

ハンググライダーについて詳しい人はあまりいないと思うので説明すると、ハンググライダーには動力がない。じゃあどうやって空を飛んでいるかというと、自然には見えない上昇気流があるので、その力を利用する。山の上の離陸場(テイクオフ)から出発し、地形や雲の様子、風向き、他の機体を見て推測しながら上昇気流を探し、高度を獲得し、上がらなくなったらまた次の上昇気流をみつけて移動し、高度を獲得し、ということを続ける。いい感じに上昇気流を見つけられない時はもちろんすぐ降りることになり、離陸場から着陸場(ランディング)まで滑空しながらほぼ一直線に降りる、という形になる。400mくらいの高度の山でそれをすると、時間は15分くらいだ。このイケてない飛び方を「ぶっ飛び」という(使用例:「今日はぶっ飛びだったわ~」)。うまく上昇気流を見つけるとたくさん高度を獲得でき、1000mとか2000mとかまで上がり、7時間とか8時間とか、もちろんもっと飛び続けることもできる。距離を延ばすことも可能で、日本での最長飛行記録は、非公式記録ながら岡山から琵琶湖、200kmを超えている。(余談だが、記録保持者のUさんは私の大学のハングサークルのOBで、会ったこともあるし部員たちで家にお邪魔したこともあるし、わりと近い関係だったりする(身内自慢)。つまり、狭い世界なのだ。)

上昇気流にもいくつかあるが、高度を獲得するときに主に利用する「サーマル」という上昇気流は、太陽の熱で温められた地面から発生するものだ。目には見えないけれど、実は自然界のそこらへんの地面から大小様々、ポコポコあがっている。形は円柱状だと考えるとよいが、実際は、風でよがんでいたり、太いところと細いところがあったり、途中で分かれていたり、きれいな円柱ではない。大きさは私の経験ではだいたい直径5m-20mくらいだろうか、高さはさまざま、100m程度のものから1000mとか、もっと高いものまである。天候にもよるが、強いものは上に突き上げられるくらい強く、目に見えないそれを見つける能力はフライヤー(飛ぶ人)にとってひとつの重要な能力だ。

離陸して飛びながら、グライダーが浮き上がるところ、高度計が反応するところ(バリオという、上がると音がピーとかなる機械をつけて飛ぶ。数万円する。なお機体も数十万以上してその他ヘルメットとかハーネスとか倉庫代とかやたらお金のかかるスポーツだ)を見つけ、見えない円柱をぐるぐる回って捉えながら高度を獲得する。周りながら上昇するその軌道はらせん形で、床屋の赤や青のぐるぐるみたいなイメージだ。そうして十分高度を獲得したらまた滑空しながら次のサーマルを探し、運よく見つけられたらまたそこで高度を獲得し、ということを繰り返して飛ぶ。天候によって上昇気流が上がってない日とか上がりにくいエリアもあって、そういう状態を「渋い」と言ったりする(使用例:「今日どう?」「渋いわ〜」)。

ハンググライダーは普段はレジャーとして飛ぶが(一人で飛ぶにはスクールに入って数か月の実技講習を受けてライセンスを取得する必要がある)、スカイスポーツというスポーツなので、大会もある。オリエンテーリングのように、離陸場から、決まった複数のポイント(試合当日の朝に天候を見て運営委員たちが決める)を獲得し(GPSを使って獲得したかを確認する)、決まったゴール…つまり着陸場まで行く。途中で高度が足りなくなったら、ゴールする前に降りてしまうことになる。そうこうして、一番早くゴールした人が優勝。または、ゴールした人がいなかったら一番ポイントを獲得した人、または第一ポイントの一番近くまで行った人が優勝。といった感じになる(またまた余談だが、このような大会に出るにはパイロット技能証という高度なライセンスを取得する必要があり、取得するにはだいたいハンググライダーを始めて早くても1年とか2年とかかかる。なお私はパイロット技能証をとる直前、C級練習生というライセンスの時点で競技を引退したので、この類の大会にはでたことがなく、もっと初心者向けの大会(ターゲット大会)のみ経験した)。

さて。長々説明したが、私はハンググライダーの飛行軌道は、人生に似ているなあと思っている。生まれ育ったホーム(テイクオフ)を飛び出して、新しい場所にチャレンジする。上昇気流…上向きのパワーがある環境を見つけたらそこで高度を獲得する(=向上する、自信をつける、気力を養う。人生のステージを上げる、的な)。環境に恵まれれば、日々向上し、成長を感じられる。そこで獲得した高度をもとに、また次の環境にチャレンジする。またそこでうまく上昇気流に乗れば、またレベルアップできる。ただし、上昇気流は目に見えないので、自分の直観と推測をもとに、体で感じながら見つけていくしかない。上昇気流に乗れないと、高度を失ってしまうこともある。全体が「渋くて」上昇気流がほとんどないときもある。それでもとにかく厳しいときも高度を保ちながら、次の上昇気流を探しながら、上昇と下降を繰り返しながら、自分の理想とするポイントを目指し、いつの間にか長い旅路ができていく。

ヘーゲルの弁証法によると、成長の形は一本道ではなく、らせん形だという。ぐるぐる同じことを繰り返し原点回帰を繰り返しながら、徐々に高度をあげていく。これもまたハンググライダーの高度獲得そのものだなあと思う。もっとも、幸運なことに、私の体感的には、最終的に必ず降りてしまうハンググライダーより人生のほうが、ずっと上昇しやすいけれど。ハングではしょっちゅうある「ぶっ飛び」も、人生では少ないし、大抵はテイクオフより高いところに着陸する。

というわけで、会社とか学校とか趣味とか、属する場所や自分のやることは、上向きの力が働いているところやものを見つけて行ったほうがいいなあと思う。私はいくつかの会社を経験したが、所謂ブラックで、どんなに努力しても環境に邪魔されて浮上できない経験もした。あそこは、上昇気流が出ていなかったんだろう。上昇気流がないところで必死にぐるぐるまわっても、同じ高さで回るか、高度を失うだけだ。

人は無力なものだ。地球には重力がある。自分一人の力で空を飛ぶことは非常に難しい。自分にとっての上昇気流が出ているところを選んで、その力を借りて高く、自由に安全に、大空を飛び続けたい。そして、できるだけ高いところで人生を終えたいなあと思う。

おまけ)もしハンググライダーに興味が出たら、近隣のフライトエリアを探してみてください。インストラクターによるタンデム飛行(二人乗り)体験ができます。鳥取砂丘などでは単独飛行体験もできます。

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