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新聞の勧誘の押しに負けて悔しい想いをしたお話と、メンタル強い系の友人のお話。

大学は県外、大阪に進学した。最初は寮に入ったが何かと手狭になって、また年次的に(再履修はたんまりあったが)教養過程を終えて新しいキャンパスでの授業が始まり、2年生の後半だったか、一人暮らしを始めた。キャンパスの門から道を挟み、さらに5分ほど歩いたところにあるマンションだった。

初めての一人暮らし、家具をリサイクルショップで揃えたり模様替えをしたり、忙しい日々を終えたところで少し疲れていた。その頃私は別記事にも書いた通りひきこもりがちで、授業をサボり家にいる時間が長かった。

ある日の昼、チャイムが鳴った。故郷にいたときと同じように、なんの疑いもなく「はーい」と出た。私が不用心にもオートロックを開けたんだか既に中にいたんだったか、部屋のドアを開けたすぐそこで会った。その人は私と同い年くらいの男性というか男の子で、全国紙Y新聞の勧誘にきたということだった。笑顔が自然で見目もよく、でもチャラいというほどでもなく、印象は悪くはなかった。なんとなく安心できる雰囲気だった。

「私は新聞を取るなら○紙と決めてるんで、いらないです」と言ったが、「じゃあ話すだけ!」と世間話をしてきた。聞いていると、その人は私と違う大学の学生(年上)で、新聞配達と勧誘をしながら奨学金を稼いでるということだった。

自分で学費を稼いでいる…!!!私はいたく感動し、自分の至らなさを恥じた。私は奨学金を使わず、親に学費も一人暮らしの部屋代も出してもらってるのに、外に出るのが怖くて授業に出ることもできていない。自分が情けない。この人は若くて自分で稼いで偉いなぁ。尊敬する。

すっかり感心した私はさらにまじめにその人の話を聞いた。話上手で、大阪人らしく「てか家着シワシワやな!アイロンかけな!」とか面白くイジってきたり、しかしイジりすぎることもなく、友達と話すような感じで楽しく雑談をした。引きこもり気味で病んでますとか、そういうことも優しく聞いてくれた。こっちにきてから仲がいい友達がそんなにたくさんできていなかったので、同年代の人と話をするだけで、単純に嬉しかったのだった。

30分ほど雑談し、そのうちY新聞の良さを語り、今なら洗剤か発泡酒を粗品としてつけられる、新聞を取らないかと言われたけど「いやーどうせ読まないんでー」と断り、帰した。

その人は後日もきた。「話すだけ!」とドアを開けさせ一時間ほど談笑し、やっぱり最後に勧誘してきて、やっぱり断り帰っていった。

でも3回目に来たときくらいだったと思う。またふつうに雑談をして、30分くらい経って勧誘してきたのでいつも通り断ったら、「そろそろ契約してくださいよ!!」とすごい剣幕で言ってきた。呆気にとられていると、「契約してくれるまで帰りませんよ!!!てかこんだけ話して契約しないとかひどいですよ!!!!」とか怒り出した。

そう言われると私も仕事中に話し相手してもらって申し訳なかったかなあと弱気になり、そこに「そうですよ!!!」とつけ込んできて、なんだかわからないうちに押しに負け、「粗品の洗剤2箱と発泡酒一箱、普通は片方だけど今回特別に両方つけてあげるから6ヶ月間契約する」とかいうことになり、サインさせられてしまった。

その時は「新聞読むと勉強にもなるし、まいっか」という気持ちで承諾したものの、その人が帰った後、自分の意志を無視され曲げられた悔しさがムクムクと膨れ上がり、畳んだ布団に突っ伏して悔し泣きをした。

と、ふと「クーリングオフ制度がある!」と気付き、おもむろにノートパソコンで調べ、適用内であることを確認し、申し込み書の控えにある電話番号にかけてその旨を伝えた。さっきの人が出たらどうしようと思ったけど、担当は中年らしき男性で「クーリングオフね。ハイハイ」って感じでさっさと契約解除できた。ほっとした。お金は一円もかからなかった。粗品も返さなくていいということであった。

後日またあの男の子が来て、「クーリングオフしたでしょー!俺ショックでさーー!」とかなんとか友達のノリで言ってきたので、「だってもともといらないと言ってたじゃないですかー」などと多少ふつうに話して、またごねてきたけど断固として断り、その人からの、と言うか、Y新聞からの私のその部屋への勧誘は終わった。

結果的には、一円も払わず話し相手と洗剤と発泡酒を稼いだのであった。

楽しく話し相手をしてもらったのはありがたかったし、お金のない学生にとって箱入りの洗剤は重宝したし、発泡酒はサークルの友達を呼んで楽しく飲んだと思う。また、「新聞を押し売りされ逆にモノを稼いだ」というのもなかなかネタにはなった。

しかし、Y新聞の販売店はもちろん、新聞社にはひどい不信感を持ってしまった。というか今でも腹が立つ。なんやねんあいつら。一人暮らしの女子大生を狙うなんて悪どい。大学の近くのマンションを狙って、「この大学の生徒は真面目で大人しいし、地方から来た田舎者が多いから騙しやすい、契約させやすい」とか舐められてたのかな。ムカー。

てか新聞って、弱気を助け強気をくじきます、社会の不正を糾弾します、ペンは剣より強し、ぼくたちインテリ知的集団です、みたいな顔をしといて、やってること押し売りやん。悪徳商法やん。今は法整備が進んでだいぶなくなってるだろうけど、2000年代まで訪問押し売りやってたって、なんなんかね。

という話を先日友人にした。

ところ。

友人も、東京に進学しての一人暮らし時代、ある新聞の販売店から同じように強引な勧誘を受けたという。

その際彼は契約時でなく契約「前」に洗剤だとかラップだとか粗品をどんどんもらい、さらに現金を3千円ほどもらい、結局契約しなかったらしい。


現金て。


この人マジで稼いでる。


しかも契約しなかったんだ。




なんでも、勧誘を受けて「金ないもんなー」と繰り返したらその人(ガラのよくないおっさん)の財布から「ほら、じゃこれやるよ」と現金3千円が出てきたのでありがたく受け取ったと。

ほかにも「粗品をやる」と言われたから洗剤や発泡酒などあれこれなんでももらい、さらに「電子レンジがほしい」といってみたが電子レンジはもらえなかったと。

そうこうしてるうちに何やら凄んできて、「ただの勧誘員だと思ってナメてるんやろ?!」とか言い出したから、「ただの勧誘員じゃないんですか?新聞の勧誘員でしょ?もしかして暴力団なんですか?」ときくと「そうは言えんけど?」などと濁すと。暴力団だといえば恐喝罪に当たるので言わせてみようといろいろ試みたが結局言わなくて残念だった、と。

そのうち「一年分、割引ついてたった数万円くらい、出してくれよ。ノルマがあるんだよ。俺も妻と子供を養わないといけないんだよ」と泣き落としに入ったので、「たった数万円と言うなら、代わりに払ってくれ。名義は俺で契約してやるから。金は出してくれ」と言ったが出してくれんかった、協力しようとしたのに、なんで本人曰く「たった数万円」を出せなかったのか不思議だ、と。

懐かしそうに話していた。

うん。


猛者であった。


長年の新聞社への溜飲が下がると共に、私も弱みに付け込まれるような人間をやめて、また、「あいつらが押しが強い『せい』で契約させ『られた』」などと被害者ぶるのはやめて、強い人間になろう、と固く思ったのだった。

みなさんもぜひ、押し売りが来たら、私のように押しに負けるのでなく、彼のように毅然と追い返してみよう。


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