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飛行機で遭遇した、泣き叫ぶ子とそのお父さんのお話。全くなだめないし申し訳なさそうにもしなかった、けれど。

数年前のこと。東京から福岡に帰る飛行機だったと思う。いつものようにピーチだかスターフライヤーだったかLCCに乗っていた。座席は狭くて、私は身長が高いのもあり膝を曲げると足元にもあまり余裕がなく、満席の機内、隣にも前後にも人がすし詰めであった。でも大丈夫。2時間のフライトで私はいつも眠る。窮屈さを感じるのは眠るまでほんの少しだ。

しかし困った。搭乗も終わりに近づいた頃、3歳くらいのギャン泣きの子を連れた男性がやってきたのだ。外国人の父子だった。運悪く、私の真後ろの席に座った。手持ちの耳栓をしても、十分声が聞こえる。聞きながら眠れる声量ではない。男性はなだめる様子もなく、無言でせっせと荷物を収納し、その子は横の席でドタバタ暴れながら泣き続けていた。

「困ったなぁー。眠れないじゃん。でも飛行機だから外に連れ出せないし仕方ないなぁ。せめてなだめてほしいんだけど」。内心そう思いながらその泣き声を聞いていた。荷物の収納が終わった男性は、次は泣き叫び暴れるその子をチャイルドシートに括りつけ始めた。またしてもなだめる様子はなく、その間もずっとその子は泣き叫び、機内にその声が響いていた。

ふと、後ろの様子がかわった。子がチャイルドシートに座り終えた瞬間に、男性が太い腕で子を愛情一杯に抱き締め、甘い声で「どぅ、どぅ、どぅ…」と囁いた。泣き続けていた子の声はだんだん小さくなり2分ほどで泣き止んだ。眠ったようだった。機内はすっかり静かになった。子供が泣いていたのは、その父子がやってきてかれこれ15分程度のことであった。

私はその対応にすっかり驚き、感心してしまった。お父さんが泣く子をそのままにしていたのは、何も放ったらかしにしていたわけではなかった。最速で子供をチャイルドシートに座らせられるよう、荷物を片付ける作業に集中していただけだ。そしてチャイルドシートに座らせた後に、親としての責任でその子を泣き止ませた。確かに、先に泣き止ませても、シートに座らせる際にまた泣き出すかもしれない。それならしばらく泣かせて、シートに落ち着いてから泣き止ませるのがもっとも合理的だ。

でも、最速で子を泣き止ませたのだ。これ以上の親の責任の果たし方があるだろうか。

子供は自然だ。大人の理性でコントロールできるものではない。泣くのは当たり前だし、周りに迷惑をかけるのも当たり前だ。特にLCCの機内のように混んだ場所では、親御さんは子供の扱いに気を揉むだろう。混んだところにつれていかないのが一番だけれど、そうせざるを得ないときもきっとある。

そういうとき、周りは、「申し訳なさそうにしてくれる」「なだめる素振りを見せる」ことを期待してもしようがない。そんなことに気を遣わせるするよりも、親御さんもが、子供を最速で泣き止ませることに集中できるよう待つのがきっとよい。子もたぶん、「周りに申し訳ないからなだめている」のは見抜く。本心から自分に気持ちが向いていないのはわかる。周りにやたら気を遣ってみせるよりも、メリハリを持って、然るべきときに愛情を持って、集中して落ち着かせたほうが効果がありそうだ。周りをかえりみず、愛情一杯に子を抱き、「どぅ、どぅ」と。

今回、「早くなだめでほしいなぁ」と身勝手にイライラしたことを反省した。きっとどの親も、その親子にとって最速でその子を泣き止ませようとしている。それまで気長に見守ろう。その親子にとって最適なペースで泣き止ませられるように、子供に集中できるように。周囲への態度には過度に期待しないでおこう。そう思った。

そして、将来子供を育てることになったら、この「どぅ、どぅ、どぅ」技術の習得に励もうと思う。

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