マイナースポーツのススメ〜ハンググライダーとトライアスロンの経験より〜

私は中高のとき、バスケ部に所属していた。

入ったきっかけは消極的なもので、背が高くて足が速かったのと、入りたかったパソコン部と美術部が定員オーバーで入れなくて流れて入ってしまった感じであった。思いのほか楽しくて高校の途中まで続けたが、弱小チームで私のバスケ部人生が始まったからなのか、単に私に球技の才能がなかったからか、運動神経・身体能力には自信があったのに、めちゃめちゃきつい練習も頑張って出ていたのに今ひとつ上達せず、スタメンにはなれないし、世の中には私よりずっとうまい人がたくさんたくさんいて差は縮まらず開く一方で、世間は世知辛いなぁと思ったのであった。

大学では新歓の時期に、学部のテニサーからボランティア部、航空部とあれやこれや体験し、最終的にハンググライダーサークルに入部した(よく聞かれるが、三角形の翼で動力なしで山の空を飛ぶあれである)。ここではたくさんの貴重な経験をして今の私の大きな糧となっているわけだが、その中で学んだことのひとつは、「マイナースポーツは楽しい」であった。

ハンググライダーの世界は狭いし、関係が濃い。まずはライセンスを取得するためにスクールに入るが、日本中のスクールのインストラクター同士は基本知り合いで、仲間。敵ではなく協力関係にあり、テイクオフ場は隣のスクールのインストラクターに、ランディング場ではいつものインストラクターに安全確認をして見てもらう、ということも普通にある。必然的に、同一のスクール生のみならず、近隣のフライトエリア(飛ぶ場所は決まっている)を利用している他スクール生、他インストラクターとも仲間になる。大会出場のため別の県にツアーで行ったりするが、そこでもレセプションという呼び名の飲み会をして他大のみんなとわいわいがやがやと騒ぎ、全国に仲間ができる。これは、個人競技と団体競技という違いのせいもあるが、試合では常に敵対関係にあり、目が合うと睨み合う女バス(女子バスケ部)とは大きく違い、なかなかのカルチャーショックであった。

そして、狭い世界なので活躍しやすい。ハンググライダーは実は年に何回も日本各地で大小様々な大会が行われているのだが、全然うまくない私もローカルの女性初心者向け大会で準優勝し3万円の賞金を獲得したことがある。さらには、一緒のスクールで活動している先輩や知り合いには、世界選手権出場者、日本学生選手権優勝者がぞろぞろといた。

所属していたスクールのレベルが高かったというのもあるけど、それを差し引いても、これはバスケでは絶対にありえないことだ。バスケでは、みんな毎日のように汗だくで練習しているのに、年に数回のトーナメント戦で学校の半分は一回戦で負け、また半分は2回戦で負け…、県大会に出場できるのはごくごく一部、そして全国大会はまたさらにごくごく一部。なんせ人口が多いからバスケで表彰されたり選抜されたりするのは非常に難しく、その多くはミニバス(小学生)から始めて推薦ありの私立強豪校でしごきを受けたエリート達。中学・高校から始めて全国レベルで活躍するには、女子で身長が190cmあって体力もあるとか、実は桜木花道だとか、類稀なるほど恵まれたフィジカルとセンスがいる。私のように、推薦入学もない一公立高校のバスケ部では、日本トップの選手と知り合うこともない。

なお、私は過去に長年ピアノを習っていたが、ここでも同じことが言える。私は10年近く先生についていたが、せいぜいクラスや卒業式で伴奏をするだけで、ピアニスト界で実力を認められるような機会はまずなかった。ピアノで褒められるレベルになるには、2歳から一流の先生にしごかれ続けプライベートの時間の多くを練習に充てている、ということが必須なのだ。

それが!ハンググライダーでは。学生フライヤー(空を飛ぶ人をこうよぶ)はほぼ全員大学からこの競技を始めていて競技人口も少ないので、そこから表彰台は狙えるし、もちろん努力とセンスは必要だが日本一たって全然狙える。ピアノを大学から始めて全日本学生コンクールで入賞する可能性を1(すごく少ない)とすると、ハンググライダーは1恒河沙とかになる。とにかくハンググライダーは「山が低いから頂上が近い」のである。

そして、そういう小さく珍しい山を好き好んで登っている酔狂な者同士は、独特の連帯感が生まれますます心の距離が近まり、もはやファミリー感が出てくる(このあたりは、ボロいバンででかけ、夜は宿泊所で男女で雑魚寝する慣習とか、命も金もかかってるスポーツで全員揃いも揃ってやる気がある等の理由もある)。「ハンググライダーやってます」が一致したときの仲間感は、「バスケやってます」より確かに強い。確実に強い。「どこのエリアで飛んでるの?あーあそこランディング怖いよね。でも上がるからいいなぁ。じゃ、○○さんとも知り合いか。いつから始めたの?初飛び(初めて山から飛ぶこと)いつ?どの機体に乗ってるの?スタ沈経験した?(すたちん…テイクオフに失敗して離陸場近辺に不時着すること)」のように我々の中だけで通じる積もる話があり、旧知の友のように盛り上がる。

私は最近オープンウォータースイミング、トライアスロンを始めたが、これでも同じことを思う。私は女性なので特に人口が少なく、二年前初めて出場した海のスイミング大会(500m)では6人くらい中2位に入賞した。なお、私はキロ30分の市民プールスイマーで謙遜でなくさして速くない。その後かれこれ海や川を泳ぐ(+走るバイク含む)系の大会は10回近く出たが、もう家にメダルが3個、大きなトロフィーが1つある。念のため言うが、私はスイムに加えてランもバイクもさして速くないし、追い込んだ練習してもいない。「女子30代の部1人中1位」「3人中3位」なんてことが多々あるし、上級者ほど長い距離のレースに出るので、短いレースに出るとわりと初心者が多く入賞できるのだ。なんとラッキーなことだろうか。名前を呼ばれて壇上で表彰されると、それが3人中3位でもやっぱり嬉しい。出場した甲斐があるというものだ。そしてトライアスリート同士もまた、なかなか仲間感が強い。

このように、マイナースポーツにはメジャースポーツにない独特の楽しさがある。バスケや野球、サッカー、ピアノなどのメジャー趣味で芽が出なくてやめたという人にはぜひ、宣伝されてない、流行ってもないようなマイナーな世界から、ピンとくるものを選び、足を踏み入れてみることをお勧めする。みんな人口を増やしたくてとても歓迎してくれるし、熱量の大きい人ばかりだし、表彰される機会も多く、達成感と成長を感じられる機会がたくさんあるのだ。

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