赤の他人に躊躇なく話しかけると思わぬ世界が見られるという話
アート補給の本日は森美術館のChim↑Pom展へ出かけていった。展示を見終えてまだディナーの予約まで時間があった夕方、同じチケットで入れる展望台にも立ち寄ってみると、なにやらバズーカを構えるカメラのおじさん軍団がいた。
なんだなんだ?ダイヤモンド富士でも見えるのかな?(いやでもめっちゃ曇ってるけど…)
こんな時、私はいつも一ミリの躊躇いもなく、取込み中でないカメラおじさんを瞬時に見極め、声をかける。
「あのう、今日何かあるんですか?」
そうすると「バイデン、バイデン。さっき横田に着いたの」と教えてくれた。おじさん軍団はカメラ愛好家ではなく、ガチの報道カメラマンだった。(おじさんとか言ってごめんなさい)
西の空からごま粒が飛んでくる。はたまたヒルズ上空にもヘリがいる。カメラマンさん達はそれらを見ながら「あれは随行者のヘリだ」「でかいな、あれはXXだ」「あれはまだバイデンじゃない」などと言っている。さすがだ、詳しい。
まず最初に着陸した、プロペラが前後に二つついてるヘリコプターから人がわらわらと降りてきた。ヘリのサイドから降りるのかと思ったら、なにやらお尻のほうから出てきた。完全に想定外。
「おおお、あんなとこから出てくるのかぁぁ!トム・クルーズとかがよく出てくるとこかぁ!」と興奮する私(脳内で発せられた言葉は大概声になって外に出ちゃう)に、カメラマンさんは隣で「面白い人ですね、彼女」と私の美術館バディに笑いながら話かけていた。
なかなか本命機が来ないので、大丈夫そうな頃合いを見計らってカメラマンさんに話を振ってみた。「普段どんなものを撮るんですか?」
するとカメラマンさんはおしえてくれた。「僕は戦争とか紛争とかですね」
「へ〜そうなんですね!」
………。
って、ん?日本って戦争あります?
と思った私。「最近はどのへんで撮られたんですか?」と聞いて初めてカメラマンさんは「ついこないだまで一ヶ月半ウクライナにいた」ということを教えてくれた。またすぐ戻るのだと。(わわわ!マジか!!)
カメラマンさんは、頭の上をミサイルが飛ぶなかで撮影をしてきたことや、戦地じゃないウクライナのこと、これまでもイラクやらカザフスタンなど紛争地域で数多く仕事してきたことなどを話してくれた。戦場カメラマンは日本に数人しかいないということも。
ってことは、きっと私はこの方の写真を今まで数知れず見ているんだろう。さっきまでカメラおじさんだと思ってた人が今は全く違う人に見える。人は話してみないと本当に分からないものだ。
「よくぞご無事で帰って来られましたね!」
そんなこんなで少しお喋りした後、バイデン大統領が来るまでもう少し時間かかりそうだったので、少し近くの展示を見るために場所を離れて数分後、カメラマンさん私を呼びにきてくれた。「おねえさん!おねえさん!(もうすぐくるよ!)」って。
ううう、プロの方になんだかすみません。ただの通りすがりの野次馬なのに…。
地平線の下に入ってしまうとファインダーでは捉えづらいごま粒を肉眼で追いながら、一瞬カメラマンさんが見失った時にすかさずアシスト。「代々木体育館の右側のクレーンがあるところの下、今青山あたりです!」
袖振り合うも多生の縁。せめてものご親切のお礼に役に立ちたい私。
思いがけない出逢いにより、展望台での思いがけない小一時間は、Chim↑Pom展が全部ぶっ飛んでしまうくらい面白い時間でした。(Chim↑Pomさん、森ビルのみなさまごめんなさい)
最後に立ち去る時、カメラマンさんに丁重にお礼をお伝えすると、カメラマンさん「こちらこそ楽しかったです」と!
いやあ、お仕事タイムに私とのお喋りを楽しんでくれたのであればなによりです。お名前聞いておけばよかったなあ。なかなかあのようなお方には再びお目にかかれることはないでしょうが、次の戦争最前線でのお仕事からも無事に帰って来られますように。
今日、多分あそこでニュースサイト開いたりネット検索すれば、ダイヤモンド富士ではなくバイデン来日ということは分かっただろう。
でも私は常々、テクノロジーは遠くの人を瞬時に繋げられる素晴らしいものである一方、目の前にいる人を遠ざける可能性を孕んでいるものでもあると思う。
だから私は「あえて」目の前にいる人に聞く方を選ぶ。だってこの人たちは回答を持っているのだから。
道に迷った時、お店の営業時間が知りたい時、目の前に答えを持っている(いそう)な人がいたら声をかけよう。
上手く行けば会話の延長線上で、まさか今日そんな話を聞くと思わなかった、という世界を見せてくれるかも知れない。
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