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この広い世の中の狭い世界で同窓生に出会う

出身大学の研究室の同窓会から、HPに掲載するための近況報告の執筆のお誘いをいただいた。後輩のためにお役に立てるなら喜んで書かせていただきます!と、後先考えず脊髄反射的に二つ返事で前向きな回答をしたが、PCに「私は」と二文字を打ち込んだところで完全に思考停止し、一向に筆ではなくタイピングが進まなくなった。

そこで、なぜ近況報告が書けないのかを考察してみた。まず、「アカデミアでの各種研究支援活動」と一言でくくっている私自身の普段の業務の種類が雑多すぎて何から書けば良いかわからない、ということ(https://note.com/kumbl_kyotou/n/nce50df2dd4e8)と、さらに、お陰さまで生きてきた年数がそこそこ長くなり、昨日のことすら朧気にしか覚えていないような薄い記憶力において「近況」とは一体どの時代まで遡れば良いか判別がつかないことなどが原因かもしれない。と、誰に対してなのか良くわからない言い訳を無理やり探しつつ、結局課題の解決には至らず、原稿文案には「私は」の二文字が残されたままで、日々の業務に現実逃避していた。

とはいえ、いつまでも二文字のまま放置するわけにはいかない、とくよくよしていた折も折、免疫学会がアウトリーチ活動の一環として実施している「免疫ふしぎ未来2023(http://fushigimirai.umin.jp/2023/)」というイベントが東京のお台場の日本科学未来館で7月30日に実施された。自称(決して詐称ではない)研究者の当方は、かろうじて免疫学会に入れていただいている身、例えささやかなものでも本学会で何等か務めを果たし、学会での存在感をアピールせねばと勝手に奮起し、イベント開催側として参加させていただこうと思っていたが、なんと、直前になってその日に外せない緊急の用務が入ってしまった。

結局、イベントにはほぼ参加できず、「免疫学会の皆様どうか私のことを忘れないでください」という心細い気持ちで、イベント完了間際に滑り込みで現場に駆け付けた。「何しに来たんや」と、そこにいた誰もが心で私に突っ込んでいただろう。それでも、私自身がその場に来ていたという確固たるの爪痕を残したく、大学の同窓生である免疫ふしぎ未来2023実行委員長の常世田好司先生(鳥取大学)と、実行委員の一人、宮内浩典先生(国立感染症研究所)に、「我々の同窓会に、同窓生が活躍している様子を知らせよう」と自分は何ら活躍していないのにも関わらず偉そうに呼びかけた。年功序列(多分)の同窓会の先輩の言葉だから拒めなかったのであろう、なんちゃらハラスメントになりそうな事案にも関わらずにこやかに一緒に写真に納まってくださったお二人に、同窓の繋がりの暖かさを感じ、大変ありがたく思った。

当方は産学連携に関わる多種多様な業務を抱えているが、産と学をつなぐためには両方の状況を良く理解している必要がある。上述のような学会での活動は、アカデミアの研究者を知るためには重要であるが、一方で、複数企業の窓口担当者との密なコミュニケーションを行うことも極めて重要である。そこで、これまでコロナ禍のために控えていたが、今年の夏は各社の担当者に直接会いに行こうと、複数企業に面談を打診した。

実は数ある業務で最も辛くて最もワクワクする業務が、実地での「営業活動」である。2004年に国立大学が法人化し、自分達で研究資金を稼いでいかなければならない環境において、我々のような大学の「アライアンス・マネージャー」は、大学の研究をこの足で売り込むことも肝要である。一方で企業側は、研究者の研究だけではなく、大学側がそれをどのように「プロデュース」出来るかについてもよく見ている。アライアンス・マネージャーの力量が産学協業の成否を大きく左右することは間違いない。何がつらいかと言えば、営業なので、や当たって砕けることが多く、面談後に、何の感触も得られないときや、多分、来られても困ると思われているだろうなというのがその場の空気でびしばしとわかるときなど(それでも営業だから空気が読めないふりをしてまた行くけど)、いくら年齢と共に図太くはなってはいても若干凹む。

一方で、何がワクワクするかというと、基本的に産も学もアライアンス担当者同士、大学での研究における様々な課題感は同じように持っており、そうした課題に双方でどう向き合うかの議論ができることは大変に貴重で、目まぐるしく動く製薬業界の世界情勢をキャッチアップするのにも大変に学びの多い時間ものである。

そうして各社を巡るなかで、思いがけず二年後輩の同窓生と、ある企業のカウンターパートとして対面することになった。何が嬉しかったかというと、議論しているときは企業側の立場としていろいろと手厳しい意見出しが彼の方からあり、ああ、プロフェッショナルだなあと非常に感慨深く                                        思いながらそれらを受け止めたが、面談が終了すると途端に同窓生の顔になり、今度同窓会行きますかとウン10年前と変わらぬ愛くるしい笑顔で語りかけてくれたことだ。人生は一度きり、先人がいない上に、目まぐるしく変わっていく製薬業界の中で 風を読まなければいけない。同窓生が同じ荒野の中で風を読み、共に戦っているのだと思うと非常に心強く感じた。

大学に在籍していた頃、自分のことしか見えず、今思えばもっともっと大事にしておけばよかったと思うことはたくさんある。その一つが同窓生との繋がりである。すでに業界を勇退された大先輩から未だ学部生の後輩まで、幅広い年齢層にわたる繋がりは、人生において貴重な財産である。そんな大事なことに気がつくのにずいぶん時間がかかってしまった。自分が自分に課した壮大な使命は、基礎研究力強化による日本の国際競争力の向上に向けた産学連携のための革新的な体制作りであるが、こうした試みにおいても同窓生の存在は極めて重要だと思う今日この頃である。

京都大学大学院「医学領域」産学連携推進機構
鈴木 忍

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