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産学連携のためのリエゾン~大学の研究力向上のために我々がすべきこと~

京都大学大学院医学研究科「医学領域」産学連携推進機構(KUMBL)というところでお仕事をしております。何らかの事案ですでにご一緒させていただいた方も、初めて当機構名を目にされた方も、どちら様も何卒よろしくお願いいたします。

本日、当機構のHPをリニューアルした旨、各所にアナウンスを始め、当機構のニュースレターも併せて発行いたしました。

当機構HP:https://www.kumbl.med.kyoto-u.ac.jp/

ニュースレター:https://note.com/kumbl_kyotou/n/n0f453266fe30

これを機に、この度、当機構の活動について以下のとおりご紹介をさせていただくこととしました。思いが入りすぎて超大作になってしまいましたが、よろしければご高覧いただければ幸いです。

1)産学連携のための我々のお仕事について

産官学連携におけるよろずお困りごと支援つかまつり候

この「なんちゃら機構」は何をするところですか?と、ド直球のお問い合わせをよくいただきます。一言で表すのにいつも難渋しますが、あえて申し上げれば「よろずお困りごと支援つかまつり候」、ミッションはただひとつ「大学の研究力向上」であり、そのために、頼まれる限り、思い付く限りのありとあらゆる事柄を合法的に泥臭くやっております。下記に少し事例を挙げます。

・「研究をしてくれる企業を探してほしい」という研究者からの要望を受け、興味を持ちそうな複数企業に声をかけたり、当該研究者による学内外向けの各種セミナーを企画実施して研究をアピールし、パートナー候補企業を探す。
・「学内の研究者と共同研究を実施したいが、学内の手続きをどう進めたら良いのかわからない」という企業からの依頼に対応し、契約関連の事務手続き等を手伝う。
・共同研究契約締結において企業と大学との交渉が難航しているケースで、双方の間に入って妥協点を探り、合意に至らせるための折衝を行う。
・「研究室員の雇用を確保をするための資金が必要なので、産学共同講座を作りたい」という相談に対し、研究者と共に戦略を立てて各社と交渉する。
・医学研究科・附属病院における全ての無償の成果有体物移転契約(Material Transfer Agreement、MTA)に対応、年間に200件以上のケースを扱う。

研究活動そのものにおいて直面する各種課題への対応や人生相談も…

研究者が研究を実施する際に直面する数々の困難に対する各種相談に、時には母のような気持ちで耳を傾けます。

・研究する場所が狭いが、どうにかならないか。
・良い技術員や研究員を雇用したい。
・今後の研究の展開に悩んでいる。
・ランニングコストが高額な研究機器を使いたいが、予算が限られているため、なんとか廉価で使う道はないか。
・研究室内での人間関係に悩んでいる。
・任期の関係で次のポジションを探す必要があるが、そもそも自分は研究者に向いているのか、今後のキャリアの在り方について悩んでいる

大学の研究力向上のための各種戦略の立案と実行

大学の研究力向上のためには研究のための資金と人、そしてより良い環境の整備が必要です。個別の研究者によるリクエストへの対応はもちろんですが、戦略的に、いかに資金と人を大学に集めてくるかということを考えることは極めて重要で、それについて常に検討しております。

これまでに当機構では、AKプロジェクト(アステラス製薬との共同プロジェクト)など複数の製薬企業との大型のアライアンスを支援してきました。これにより研究と社会実装の良い循環のもと、人材育成と研究力の向上を図ってきましたが、時代と共に、ビジネスも研究もそのスタイルは変化しており、それに合わせて、私たちも戦略を常に変えていく必要があります。学内限定公募を始めとした製薬各社との包括的な連携体制の構築等を通し、研究シーズの発掘、育成のための研究者との対話のきっかけ作りも行っています。

人材育成のための活動

大学の研究力向上、というお題においては、人材育成は極めて重要です。当機構では、医学研究科・社会健康医学系専攻で知的財産経営学分野という、日本でも希少なバイオ関連分野における経営学の専門職大学院コース講座を担当しております(https://mot.med.kyoto-u.ac.jp/)。また、京都大学の研究シーズの事業化や大学発ベンチャー支援を行うイノベーションハブ京都(http://www.ihk.med.kyoto-u.ac.jp/access)の運営も支援しております。さらに、京都大学メディカルイノベーション大学院プログラム(https://www.mip.med.kyoto-u.ac.jp/)では、どのような業界でも活躍できるような若手人材育成を目指し、学外から多くの有識者を呼び込んで各種講義の実施も行っています。

少なくとも私は好きでやっています(愚痴ではありません)

契約書の雛形をお渡しするだけ、といった簡単なことから、他人の人生を背負うような重いものまで、様々、相談されたことは出来る出来ない関わらず全力で検討します。学内の各種施設利用のルールの作成に関わって、より良い研究環境の整備を試みたり、異なるバックグラウンドの研究者同士のマッチングを実施することで異分野交流研究を活性化を促したりといったことも常時行っております。

人と人、組織と組織の間に入り、理屈だけで説明できないそれぞれの立場の思いも汲み取りながら合意形成を促していく仕事ですので、揉め事の交渉に入る際、時には険悪な雰囲気の中でびくびくと仲裁を試みたり、私は全然悪くないよね?と思うことで理不尽なお叱りをうけたり、こんな泥臭くて面倒くさくて、神経をすり減らす仕事、よほどの変わり者じゃないとやれないだろうと我ながら感心しております。到底解決できないような難題も多々あり、自らの力不足を嘆きつつも、それでも、京都大学、ひいては日本のアカデミアの研究力の向上という、気高く壮大な使命に誇りをもっています。海よりも深く山よりも高い慈愛の心で毎日めげずに、デッドボールもストライクゾーンに含んでしまえの勢いでミットを構え、時にはボールをぶつけられても、多くの研究者を支援できることに喜びを見出して、人智を尽くして前向きに楽しく鈍感に日々の幅広い業務に取り組んでおります。

何はともあれご相談ください

ちなみに当方の得意分野は「アライアンス」、すなわち、複数機関間の連携体制を構築することですが、学内外からの幅広いご相談事にお応えするために当機構にはバックグラウンドが異なるスペシャリストが複数おります。京都大学大学院医学研究科・附属病院の方々におかれましては、どこに相談したら良いかわからないお困りごとは、ゆるい期待感のもと、まずは下記のよろず相談のための窓口メールにてお問い合わせいただき、私どもにご相談をください。また当研究科・病院にご興味をお持ちの学外のアカデミア・企業の方々におかれましてもこちらでご相談を承ります。

med_helpdesk@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

2)当方の経歴と京都大学で産学連携に携わる者としての想い

当方は大阪大学の薬学部を卒業後、北米の大学や日本の研究所にて10年ほど基礎研究に従事し、その後15年間、外資系の製薬企業3社で勤めたのち、4年前に京都大学に参りました。当方のより紆余曲折の経歴についてはLinkedInにて記載しておりますのでよろしければご高覧ください(https://www.linkedin.com/in/shinobu-suzuki-66499715/)。

30過ぎ頃に研究成果をトップジャーナルに掲載するという得難い経験を得ることができ、そのまま基礎研究に邁進したいという思いもありつつ、周囲のより非常に優れた研究者達が研究費獲得や雇用に悩む様子を目の当たりにする中で、将来的にアカデミアの研究活動をもっと活性化するためには、研究のための資金を国に頼るだけではなく産業界からも得つつ、アカデミアの成果をより効率的に社会実装してそれにより得た利潤をまた基礎研究に還元していくような仕組みを作ることが必要なのではないかと考え、産学連携を促進するための活動に関わりたいという思いを抱き、企業のことや創薬のプロセスを知るために、外資系製薬企業に転職しました。

企業では主に大学等の基礎研究からシーズやアイデアを見出して、グローバルにつないでいくというような「産学連携活動」に従事するようになりました。しかし、企業からはアカデミアでの研究がよく見えません。言語の壁、時差の壁、文化的な壁、「秘密保持契約」の壁と、幾重もの壁を乗り越えないと大学での研究を企業側に繋ぐことは困難であるということがわかってきました。学術論文や学会発表なども精力的に探すのですが、そもそも、その研究者が産学連携を望んでいるのかもわからないし、研究成果を挙げて世間にいち早くそれを発表していくことを目指す研究者と、その成果を出来る限り秘匿しながら製品開発を進めていこうとする企業とで簡単に折り合えるわけもなく、せっかく共同研究に至っても物別れに終わるケースも多く経験しました。企業に留まる限りは、自分が思う産学連携活動を行うことは難しいと感じるようになり、企業のことをもっと研究者の方々に知っていただいたり、逆に企業側にも研究者のことを理解してもらえるように様々な形で双方を繋いでいくためには、自分自身がアカデミアの中に入ることが重要なのではないかという思いを持つようになりました。

京都大学の学生が「京都大学にいる以上、どこか普通の人と違っていないといけないというプレッシャーがある」と言っていましたが、そのプレッシャーがあるからなのか、京都大学の研究者の方々の発想は発散しており、学風も自由でとても魅力的でした。京都大学であれば、自分自身が長らく目指していた、基礎研究を活性化するための産学連携の仕組みを作っていけるのではないかという思いから、当機構に参りました。

3)アカデミア研究者への産業界からの期待

数年前までは製薬企業の方々から各社のニーズを教えていただいて、そのニーズに沿って研究者とお話をしていましたが、最近、製薬各社、自分の会社のニーズ、わかっているのかしら?と思うことが非常に増えました。この目まぐるしく動く世の中の先に医療において何が求められるかのトレンドを掴み切れていないのではないかと感じております。

数年前は「すぐに臨床試験に入れるようなシーズがないか」というようなことを製薬企業側に問われては「そんなもんが大学に都合よくごろごろ転がってるわけないやろー」とあまり美しくない言葉を発声してしまいそうな衝動と闘いながら「なかなかないですねー」とつとめて上品にお返事していました。しかしながら、コロナ禍中に様相が変わり、領域にこだわらず、今までになかったようなコンセプトの早期の研究を行っている研究者とのつながりを求めるケースが増えてきたように感じています。企業側には化合物はあるので、それを試験できるような細胞系や動物モデルを探しているというケースも増えてきており、必ずしもシーズがなければ企業と共同研究は出来ないという状況ではありません。

また、高齢化社会や少子化などの多くの社会課題に対する解を医学領域に求める製薬・医療機器メーカー以外の企業も増えており、食品や化粧品メーカー等の参入も認められています。さらに、近頃ではスタートアップを日本から生んで育てるという機運が高まっており、アカデミアからなんでも良いので何か奇抜で新しいものが出てこないかという目を投資会社が向けてこられるようになってきています。京都大学が受け入れている共同研究でも、事業会社との共同研究だけではなく、スタートアップとの間のものも非常に増えています。

そのため、産学連携にご興味をお持ちの研究者の方々には是非、早期すぎやしないか、研究領域的に興味を持たれないのではないか、などと躊躇されずにその意思を表明していただけると、興味を持つ企業はあるかもしれません。知財がご心配な場合は当機構でまずはお話を伺いますので、是非ご相談をいただけましたら幸いです。

4)あらためて、よろず相談窓口の紹介(気軽にご相談ください)

私ども、京都大学大学院医学研究科・附属病院の研究者や当研究科及び附属病院にご関心をお寄せいただいている学外のアカデミア及び企業の方々を対象によろず相談を承っております。こんなこと相談できるのだろうかと思うようなことも、あくまでゆるい期待をもって下記よろず相談窓口までご相談いただけましたら幸いです。

med_helpdesk@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

ここまで駄文をお読みくださりありがとうございました。みなさまのご研究人生のご成功を心から祈念しております。私どもも非力ながら一生懸命、研究者の方々の研究人生に伴走させていただければ幸甚です。

鈴木 忍 拝
京都大学大学院医学研究科「医学領域」産学連携推進機構 特定教授 
京都大学オープンイノベーション機構 プロジェクトクリエイティブ・マネージャー

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