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【鬼滅の刃×中国思想】炭治郎の正義感と羞悪の心
遊郭編がスタートして早くも第6回が終了しました。つぶやきの方でも投稿しましたが、とにかく作画がすごい…。
圧倒される戦闘シーンに、登場人物(登場鬼?)たちの心情が伝わってくる描写の数々に魅了されます。制作会社や声優陣、その他多くのスタッフの方々の努力に頭が下がります。
さて、今回は炭治郎の正義感と、数いる中国の思想家の中でも有名人である孟子をつなげて高校倫理の内容を深掘りしていこうと思います。
1)炭治郎の心に火がつく。
まずは本編の場面を見ていきます。第6話「重なる記憶」の中のこのシーンを覚えているでしょうか。
(漫画「鬼滅の刃」11巻 第81話「重なる記憶」)
上弦の陸の鬼である堕姫がまちの人達を斬殺し、嘲笑う言葉に対して炭治郎の怒りが爆発するシーンです。
その際の炭治郎の心の声と堕姫に対して向けた言葉を振り返ります。
〈炎柱・煉獄杏寿郎の父である煉獄槇寿郎(しんじゅろう)の手紙を受けての心の声〉なくとも 力が足りずとも 人にはどうしても退けない時があります。人の心を持たない者がこの世には居るからです 理不尽に命を奪い 反省もせず 悔やむこともない その横暴を俺は絶対許さない」
〈堕姫に向けて発した言葉〉
「生身の者は鬼のようにいかない」
「なぜ奪う?」
「なぜ命を踏みつけにする?」
「どうしてわからない?」
「人間だったろうお前も かつては痛みや苦しみに踠(もが)いて涙を流していたはずだ」
(略:堕姫の言葉)
「わかった もういい」
煉獄杏寿郎をはじめ、目の前で多くの死を見てきた炭治郎にとって、心の奥底から湧いてくる感情がのった言葉だったことでしょう。絶対に不義を許さないという強い気持ち、そして怒りが伝わってきました。
2)他者の不善を憎む心:「羞悪(しゅうお)の心」
この不義を許さない心を、孟子は「羞悪(しゅうお)の心」と言いました。
自他の不善を恥ずかしく思う気持ち。この心が、善悪を道理のままに判別し、それに従って潔白にふるまう義の心の発端。
『用語集 倫理 [新訂第3版]』(清水書院)
自分の行いもさることながら、他人の不善の行為を恥ずかしいと思う心が羞悪の心です。
不善を憎む心も含まれるため、炭治郎のこの時の怒りは羞悪の心に限りなく近いでしょう。
他にも3つ、人間の本性として備わっている心があると孟子は言い、まとめて「四端」と言われています。彼は以下のように自分の考えを主張しています。
[原文]
是に由りて之を観れば、惻隠の心無きは、人に非ざるなり。羞悪の心無きは、人に非ざるなり。辞譲の心無きは、人に非ざるなり。是非の心無きは、人に非ざるなり。(中略)人の是の四端あるは、猶其の四体あるがごときなり。是の四端ありて、自ら能ずと謂ふ者は、自らそこなふ者なり。
(『孟子』公孫丑上篇)
[現代語訳]
惻隠(そくいん)の心がない人は人間ではない。羞悪(しゅうお)の心がない人は人間ではない。辞譲(じじょう)の心がない人は人間ではない。是非(ぜひ)の心がない人は人間ではない。(中略)人間がこの仁義礼智という四つの本質を持っているのは、生まれながらに両手両足があるのと同じである。この四つの本質があるのに、自らできないとあきらめてしまう者は、自らそこなう者である。
「羞悪(しゅうお)の心がない人は人間ではない。」と孟子は語っています。炭治郎の言葉を借りれば、「人の心を持たない者」、つまり鬼であるということです。
孟子は性善説を唱えたというのは有名な話ですが、具体的には四端の心と呼ばれる善の心の兆しがあるということを根拠に、人間の本性は善であると主張しました。
たしかにこの心は皆、持っているような気がします。
生徒たちに問いかけてみたら、実感として一番多いのが辞譲の心でした。
そして悩んでいる友人が見逃せずに声をかけ、話を聞いたという子どももいました。
この事例はまさに、孟子流に言えば惻隠の心がある証拠と言えるでしょう。
性善説は綺麗ごとで嫌いである人も多いかもしれません。
しかし四端という考えは、価値観が変遷する目まぐるしい社会を生きる私たちが忘れていた心の大切な部分を言い当てているような気もします。
※性善説とはいえ、人は放っておくと悪に染まっていくので教育が必要であると孟子は主張しています。
今回は、この炭治郎の正義感に感動した人も多かったのではないでしょうか。
「悪を憎む」という心は孟子が言う通り、人として当たり前のことだからこそ共感しやすい場面だったのではないかと考察します。
四端の心を日常の中で意識して生活すると、目の前の景色が変わるかもなと思ったところでした。
以上、鬼滅の刃で学ぶ高校倫理でした。
やっぱり鬼滅の刃は倫理要素が多くて面白いです(笑)。次回をお楽しみに!
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