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愛液奇縁

海開き愛液香る人の郷
(うみびらき あいえきかおる ひとのさと)

季語は「海開き」で夏を表す。しかしこの句は海水浴場の開場を詠んだものではない。海は人類が生まれる豊穣の海。股間の奥に広がる海だ。愛液に濡れた下着が乾いてガビガビになったところの匂いを嗅ぐと海藻のような香りがする。そこで生きとし生けるもの遍く海に生まれてそれぞれの進化を遂げたことを想うのである。人間なども、海とは関係ありません、というような風体ではあるけれども、元を辿れば海の生き物だったことが身近なところでわかるのだ。そこに感激がある。

以前、ここに進化のことを少し書いた。「進化」が人間を終点にして語られることへの違和感のようなことを話題にした。しかし、受精卵が細胞分裂を繰り返して胎児になる過程が恰も進化を辿るかのような様相であるのも事実だ。ヒトの場合、発生初期の60日間が23段階に標準化された脊椎動物胚の発生段階の指標であるカーネギー発生段階(Carnegie stages)に対応しているのだそうだ。

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生憎臨時休館になってしまったが、今頃はパナソニックミュージアムで「クールベと海」という展覧会を開催しているはずだった。クールベ(Gustave Courbet)といえば絵画史の転換点の起点となるような絵描きだ。その作品に「世界の起源(L’Origine du monde)」というのがある。本などで知ってオルセー(Musée d'Orsay)に行ってみたら、期待が大きかった分、それほどのものとは思わなかった。オルセーにあるクールベなら、むしろ「オルナンの埋葬(Un enterrement à Ornans)」が凄かった。何がどう凄いのか、言葉にならないので書けない。オルセーは不思議なところで、上のフロアは人が多いのだが、これらクールベの作品やアングル(Jean-Auguste- Dominique Ingres)の「泉(La Source)」、マネ(Édouard Manet)の「草上の昼食(Le Déjeuner sur l'herbe)」がある地上階は比較的空いている。おそらく、並の客は上のフロアで消耗してしまうのだろう。ついでながら、アングルの描く人肌はたまらない。あの肌だけでマスがかける気がする。ルーブル(Musée du Louvre)にある「リヴィエール嬢(Mademoiselle Caroline Rivière)」は子供の絵なのだが、じっと眺めているとマズイことになりそうだ。

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