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春ピリカのゆび

「買ってみるしかない。このままでは私のフィットフィンガーがもっとひどいことに」春ピリカは最近ある悩みを抱えていた。それは足の指である。

 外出するときに靴下をはいて靴を履くが、どうも最近靴下をはくと、指の間が密着し、そこから汗がにじみ出ることがある。そして家に帰って靴下をはくと足が臭い気がするのだ。この前もピリカが友達の家に行ったときに、「あれ、春さんの周り」とまで言ってから友達が口をつぐんだことがある。「私の周りがどうしたの?」と、ピリカが友達に質問しても友達はそれにこたえることなく、すぐに話題を変えてきた。

 もし、その友達だけならピリカはあまり気にしなかったのかもしれない。だが別の友達からも「あれ、ナニコレ。ねえ、春さん、足の周りに何かいる?」と言い出したのだ。もちろんその時は私の足の周りには何もない。だけど異なる友達から、あたかもピリカの足の周りが匂うようなニュアンスで言われたのでピリカは気になった。

「毎日足を洗っているのに」確かにピリカは自分でも足の周りが臭い気がする。そういえば最近足の指同士の隙間が汗っぽい気がしていた。
「ゆび同士を放さないとダメか」そうピリカは感じたので、5本指ソックスを試してみることにする。

「うーん、どれがいいのかしら」ピリカはこれまで5本指ソックスを履いたことがない。どうも足の指の間を分離させるこのソックスは、指に余計な負担がかかるような気がしている。だからこれまでまず買う対象から外していたのだ。
 というわけで、初めて5本指ソックスを購入する。店では通常のソックス同様に、いろんな色合いの5本指ソックスが売られていたので、ピリカは自分の名字にちなんだ「春」を連想できる桜色の五本指ソックスを買って家に帰った。

「さて、履き心地はどうかしら」この日外出前に、ピリカは初めての経験を前に少し緊張する。5本指ソックスに足を通す時が来たのだ。「とりあえず、ひとつの指におさまるようにっと」ピリカはいつもソックスの通り足をいれてみた。そして指がいよいよ5つの穴に分かれているところまでは、それまで通り、ここからが初めての体験である。

「このまま履けるかな」ピリカはあえてそのままソックスを右足の指の先まではかせてみた。だがこれは失敗である。足の親指は問題なかったが残り4本指のうち、足の人差し指と足の小指はすっぽりと入った。だが足の中指と足の薬指に該当するところは、2本の足がひとつの入り口に入ってしまったのだ。

「だめか」ピリカはふたつの指の部分だけいったんソックスの穴から外すとそれぞれの穴に入るように指を入れた。
 左足の指については、右足のような失敗をしないようにひとつずつ時間をかけて足の指を所定の穴になっているところに装着する。

「あれ?意外にいいかも」想像以上にフィットしていることを知ったピリカは、思わず口元を緩めると、気持ちを新たに外出をするのだった。

(本文:1200字)


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