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夢で見た南の島の

「ん、どこだここは、薄暗い空、夜か朝か? 目の前には海が広がっている。床は木でできているように見える。すると遠くから光が見える。あれは船かなあ。でも後ろに何があるのだろう」と振り向いた時、明るい建物が見えたが、直後に後ろから何か強い力で体を押さえつけられる。「う、苦しい」その時場面が急に変わると、男は飛行機の中にいた。「どうしたの? よく眠っていると思ったら急に顔から汗をかいていて」横にいるのは、男の妻である。男は今見たのが夢だとわかった。実は海外旅行ツアーで行きの飛行機の中であった。「美食の島、マレーシアペナン島ツアー」に申し込んだ夫婦。このツアーは、全5日間のうち、旅の前半はツアーとしてガイドと共に回るが、それは2日目の昼食までで、午後から5日目の朝までは自由行動であった。2日半もフリータイムがあるという。時計を見ると深夜2時30分。男は、「今体を押えつけた相手は、ひょっとして高度1万メートル上空の霊?」と、勝手に想像しながら笑った。

飛行機は早朝にクアラルンプールに到着後、午前の便に乗りついで、ペナン島に到着する予定である。悪夢?を見た後は何も問題なく、飛行機を乗り継ぎ、あとは現地のガイドについて行きながら、ペナン島の名所を回っていく。プラナカンハウス、セントジョージ教会、コーンウォリス要塞......。ツアーの参加者は、男と妻のほか3組、男たち夫婦よりも若い新婚さんぽいカップルと、30代くらいの女性3人グループ。後は歴史が好きそうな60は過ぎたと思われる男性の4人組という構成で、お互い干渉し合うこともなく 各々が観光を楽しんだ。食事も現地のレストランの料理をガイドが説明してくれる。しかしこの夫婦は別に料理に興味がない。頭の中は、のんびり南の島で寛ぐことしか考えていない。説明するガイドは日本語が上手なマレーシア人の男性であるが、色が黒く見た目はインド人のよう。マレーシアは中国系とマレー系とインド系の人たちが共存しているから珍しい事でもなんでもないが、男たちをはじめツアー参加者はガイドそのものにも興味津々であった。

1日目が終わり、2日目の午前中まで観光を行い、いよいよ解散前の昼食タイム。アサムラクサというペナン島の名物麺をおいしくすすっていると、ガイドが「では、ここで解散です。みなさんとは最終日のホテルでお会いしましょう。時間は行程表に書いている通りです」といって挨拶をする。なぜかそこで拍手が沸き起こり、ガイドはその場を静かに立ち去った。「ねえ、この後どうするの?」早速妻が話してきた。「うーん、何も決めてないな。このあたりはほとんど回ったし、お土産買うのはまだ早い。夜はこの近くのシーフードでもと思っているけど」「じゃあ、ここ行ってみようよ。ペナンヒルというところ」妻が行きたいというペナンヒルは、ペナン島の山の上にある。バスでも行けるらしいが、ふたりはタクシーで向かった。麓でタクシーを降りてケーブルカーに乗ること10分ほどで山の上に。ここは地上より涼しくちょうど一番暑くなる時間帯に良い避暑となった。山の上にあるヒンドゥ教の寺院、そしてペナン島の美しい町並みを見下ろした後、山を降りる。街にある高層ビル「コムター」の周辺のショップなどを見まわっていると、夕方になったので、シーフードを食べるため、ふたりは海側を目指して歩いた。

夕暮れ時になり海の近くを歩いていたら、大きな建物の看板を見つけた「あ、こんなところにシーフードレストランがあるよ」「建物が船かしらね。確か香港になかったそういうレストラン?」といいながら、早速その看板のある方向を目指す。最初は広い道だがどんどん狭くなる「古い建物が多い」「せまい路地みたいなところだけど大丈夫なの?」「大丈夫だろう。まだ暗くなっていないし、どうやら隠れ家レストランなのかもしれない。せっかく南の島に来たから、取れたての熱帯魚を食べるぞ」確かに狭い路地が続くが、看板があるので迷うことはない。そしてついにその入り口に来たが、レストランではなくそこは寺院であった。日本と違い現地の寺院は派手で、電飾が明るい「ありゃ、レストランじゃなくて寺だったか、引き返そう」「でもちょっと待って、この先海が見えるわね。ちょっと風景を見て行かない」妻に言われるように海の方向を目指すと、男はそこで「はっと」した。なぜならばこの風景は、行きの飛行機で見た夢そのものだからだ。「デジャブ?」男は改めてみる薄暗い空に広がる海、ただ床だけは木ではなかった。男は遠くから光が見えるのを確認。ここまでは夢とほぼ同じ「ここで振り向いたらまさか......」と男はおそるおそる振り向く、ちょうど寺院が明るい光を放つのが見え、その瞬間、腕に違和感が! 「あっ」男は声を出しかけたが、すぐに安心した。そこには妻が男の腕を抱きかかえて体を寄せていただけであった。

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あとがき:この先品は、こちらのハンドメイド小冊子企画応募作品です。

Koji ( コジ )さんを、中心に多くの人が関わっているこの企画に、
私も参加する機会がありました。
奇しくもペナン島に旅をした帰りということもあり、
ペナン島の小説を書きたいと思っていた矢先の事でしたので、
ペナン島をテーマに1本書かせていただきました。

25日にイベントが行われ、それ以降なら公開可能との許可を得ましたので
公開に踏み切りました。(公開に関して、本文の変更は行っておりません)

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