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ジャージ野球部の産声〜第2話 謎の野球部〜

黒葛野は
中学卒業後の進路を
どうするか考え悩んでいたが

そもそも現状、
そこまでの選択肢が
ある側の生徒では無い。

野球から距離を置き
程なくすると学校からも
距離を置き始め
欠席日数も増えていった。

定期テスト時は登校をして
試験などは受けてはいたが

1年生の時には
学年300人中50番台だった
成績も今はもう後ろに
数人いるだけの状況だ。

それでも黒葛野は
「これでもドベじゃないのか!」
と、ニヤニヤしている始末で

周りのクラスメイト達が
受験の話題で
盛り上がる日々の中、

そんな教室の空気をも
バカにした様な
冷めた様な目で見ており

黒葛野は一人、
心もやる気も失い
完全に腐っていた。

だが
そんな黒葛野にも
進路の光が薄いながらも
灯り始めてはいた。

その光の主は
中学野球部顧問で体育教師の
尾仲先生だ。

尾仲は中途半端な形で
野球から距離を
置いてしまった
黒葛野を最後まで
気に掛けていた。

最後の夏の大会時も
結果、黒葛野は最後まで
首を縦には振らなかったが

一試合終わるたびに
黒葛野の自宅に電話を掛け
「次の試合は観にこいよ」
とだけ、短く声を掛けていた。

そんな尾仲だったが、
一度だけ違う用件で
黒葛野に電話をしたことがあった。

その話の内容はこうだ

「黒葛野、北勢農業高校野球部
の部長が俺の先輩でな。
少しお前の話をしたら
一度、夏休みの終わり頃にある
体験入学に来てくれと言っていたぞ
どうだ?行ってみないか?」

その話の内容に
黒葛野の頭の整理が
追いつかぬ中、
尾仲は続けざまに

「後、北勢農業野球部の県予選1回戦の試合が
テレビ放送であるらしいから観てみたらいいぞ」

と、いつもの電話より心なしか
明るいトーンで話してくれた。

電話を切った黒葛野は
「北勢農業高校?あまり聞いたことないぞ」

と、急に降って湧いて出てきた
高校名に戸惑うと同時に

こんな今の自分に誘いの声を
掛けてくれ、最近忘れかけていた
自身の承認欲求に水を与えてくれた
高校に興味を持った。

早速、毎年父が保存している
地元新聞掲載の
夏の三重県大会トーナメント表の
切り抜きを見てみる。

確かに2日後に
北勢農業高校と私立高井高校の
試合がTV放映のある津球場で
組まれていた。

今の様にインターネットも無い時代。

どんな野球部なのか
過去の戦績なども
分からずじまいのまま
黒葛野は試合当日を待った。

その試合当日
外は夏のお手本のような
太陽の日差しと蝉の声だ。

両親は仕事で出掛け
同じく夏休み中で
真っ黒に日焼けしている妹は
自室の勉強机に座り
真剣な面持ちで大好きな
お絵描きをしている。

そんなアパートの
唯一、テレビがある部屋で
自分の身体の横に扇風機をセットした
黒葛野はテレビの電源を入れて
地元放送局の高校野球中継に
チャンネルを合わせた。

甲子園大会もいいが
毎年、この県予選の中継放送も好きだ。

少し知り合いの
お兄ちゃん達が出ていたり、
正直、野球が上手いチーム
ばかりでは無いが
全員が真剣に白球を追いかけ
身近で少し年上のヒーロー達に憧れる。

そんな中
お目当ての北勢農業高校野球部
1回戦の中継が始まった。

そこで映し出された
北勢農業ナインの姿に
黒葛野は驚き
思わずテレビに顔を近づけた。


3話に続く




















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