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Vol.18 Junji Saruwatari|臨床研究に沼落ち博士

#個別化治療 #疾患感受性 #データサイエンス

1.どのような研究をしていますか?

 私は、“薬の効き方や病気になりやすさが、なぜ一人ひとり違うのか?”を明らかにするための臨床研究(ヒトを対象とした研究)を行っています。すなわち、ヒトで起こっている現象を、ヒトで解明しようとしています。具体的には、熊大病院をはじめとした国内外の医療機関の先生方と連携して、薬物の反応性や疾患の感受性に関係する要因を慎重に解明して、それにより患者毎に最適な医療を提供するシステムの開発に挑戦しています。現在対象としている疾患は、糖尿病や脂肪肝、冠動脈疾患、肺癌などの固形がん、うつ病、統合失調症、てんかん、認知症と多種多様です。これらの疾患を、病態生理学・薬理学・生化学・物理化学・薬剤学等の幅広い情報と、当研究室が得意とする生物統計や数理モデル、機械学習の技術を駆使することで、一人ひとりに最適な薬物治療や先制医療(疾患の発症前に診断・予測し、介入するという予防医療)の新規の手法を開発しようとしています。例えば、うつ病の薬物治療は、治療開始から1ヵ月以上経ってから効果が現れ始めることが多いです。そこで私は、薬物の曝露量や患者の性格特性と、様々な遺伝子情報から、どのような患者さんが、どれくらいの時期に薬物の効果が現れるかを正確に予測できる可能性を見出しました。これにより、適切な薬物の最適な投与量を患者に提供できることが可能になると考えています。ヒトの身体の機能や病気の発症・進展、治療薬の反応性はとても複雑です。加えて、臨床研究では各個人の様々な背景(遺伝情報や生活習慣など)が絡み合った現象を探求することになるため、「どうやって証明すればいいのだ・・・・」と悩むことが多々あります。そのような時、当研究室の強みである情報処理の技術をフル活用して、ヒトで起こっている現象の謎を少しでも解明できた時は、この上ない喜びが得られることから、なかなか臨床研究の沼から抜け出せません。

我々の臨床研究戦略(概要)

2.どのような人生を経て、熊本大学に?

 実家が薬局だったため、漠然と薬に関係することを学ぼうと思って熊大薬学部に入学しましたが、入学後に様々な授業や実習で知識を得るうちに “なぜ薬が効く人と効かない人がいるのか?なぜ副作用がでる人とでない人がいるのか?”という疑問をずっと持ち続けていました。そのような時、私が学部3年生の時に、国立国際医療センターから医師で世界的に有名な臨床薬理学者の石崎高志先生が熊大薬学部に教授として着任されました。石崎先生が提唱されていた「テーラーメイド医療」に関する臨床研究に衝撃を受け、迷いなく石崎先生の研究室の門を叩きました。研究室では、博士後期課程を修了するまで、石崎教授と中川和子助教授(のちに教授)の厳しくも温かいご指導により、臨床研究の基礎を叩き込まれました。その後、医薬品がどのように開発されるかを体験したくなり、外資系製薬企業の臨床開発職で働いてみました。そこでは幸運にも、医薬品候補化合物を世界で初めてヒトに投与するfirst-in-human試験の立案や実施から、規制当局への医薬品としての承認申請までを経験することができ、最先端の臨床試験(正確には治験)を体験しました。製薬企業では、医薬品の開発を通して多くの患者を救えることは実感できましたが、もっと柔軟に、経済的な利益を考えずに困っている患者を助けたい、と思うようになりました。そして、熊大の出身研究室に戻ってから、臨床研究の沼にハマりっぱなしです。

石崎高志教授(前列右から三番目)と黒川温泉へ研究室旅行(2000年3月)
現在の研究室のスタッフ・学生達+α(2024年5月)

3.生きている中で大事にしていることは?

  私は、物事を様々な視点で捉えることを常に意識しています。世の中にある課題や問題は、答えが一つではなく、見る角度によって答えも変わってきますが、それは私が行っている臨床研究も同じです。例えば、薬の効果が得られないとき、その要因は一つではなく、複数ある場合がしばしばあります。そのため、検討のやり方次第で見出される要因が変わることから、大事なものを見落としてしまう危険性があります。したがって、常に偏った見方をせずに、多角的に事象を捉えられるように心がけています。相手が誰であれ、その人の話を自分事として聞くことで、様々な考え方を取り入れる努力を続けています。私は、大学に助教として着任してすぐに、弘前大学に内地派遣留学させてもらいました。そこで、今も共同研究をさせていただいている精神科専門医の古郡規雄先生(現 獨協医科大学主任教授)と出会うという幸運に恵まれました。古郡先生は、「臨床につながる研究をしないといけない」という信念のもとで、医師でありながら薬物動態といった薬学的な観点など、柔軟に色々な視点を取り入れて研究を展開されており、その考え方が今の私の研究へのアプローチの根幹にあります。その後、准教授時代には、Yale大学のProf. Yasuko Iwakiri Labに留学し、最先端の生理学や血行動態の基礎研究を実際に体験する機会を得ました。それまで基礎研究を本格的に実施した経験がなかった私にとって、Iwakiri先生からいただいたこの貴重な経験が、私のいまの基礎-臨床融合研究の礎となりました。このように、幸運にも、私は多くの人たちと一緒に研究をさせていただく機会に恵まれました。自身の研究では壁にぶつかることも多々あり、本当に社会に還元できているかを悩むこともありますが、そのような時こそ、色々な人の言葉に耳を傾け、広い視野で見直してみて、目の前の課題を突破する努力を続けています。

古郡規雄先生(左から二番目)と上海出張(2023年7月)

▼所属研究室▼

▼紹介記事1▼

熊大通信 Vol.89(ページ7)
https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/kouhoushi/kumatu/vol_89-file/kt89_all.pdf

▼紹介記事2▼


(編集担当:織畠知香、石本太我、前田龍成、赤池麻実)

***What is KUMADAI-HUB ?***

▶第4回KUMADAI-HUB巡回ポスター展2024の演題登録が開始!

***ポスター展について***
日時:12/1(日) 12:30~18:00
場所:熊本大学工学部百周年記念館
ポスター演題登録:~11/1(金)
事前参加登録:~11/30(土)
参加費:無料 *懇親会は別途必要
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