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「響け!情熱のムリダンガム」公開講座

太鼓をめぐる、青年の成長の物語

もしひとつだけ楽器を選べるとすれば、私は打楽器を手にとる。迷いはない、即決だ。

旋律を奏でるピアノや管絃楽器は都会的かつ裕福な道楽ともいえるだろう。一方、大昔から五大陸のどんな貧しい地域にも必ずある楽器「太鼓」。
単調なリズムと侮るなかれ。
音階や音調なんて無くとも、太鼓のリズムに心臓はふるえ、全身をめぐる血が熱くたぎる。
例えば、映画「アメリカン・ユートピア」でもそうだったように。


話を映画に戻そう。本作は南インドのタミル語映画だから、シュッとしたイケメン男優とmissインディアのような美男美女カップルは出てこない。タミル人はどちらかといえば、浅黒い肌とずんぐり体型と丸っこい顔が特徴なのだ。

主人公は太鼓職人の息子ピーター。太鼓をめぐる親子の葛藤、師匠や兄弟子との障壁、身分の差、伝統芸能と今どき音楽、映画スター「推し活」、テレビ局の音楽バトル、と、胸アツ事案が山盛りテンコ盛りの成長物語だ。

ネタバレを書かないために予告編をどうぞ。


ムリダンガムの太鼓にかけるピーターの情熱がほとばしり、ラフマーン(代表作:スラムドッグ・ミリオネア)音楽もいい塩梅にドラスチックで、要所要所で胸にグッとせまってきた。
また、ピーターのGF・サラと師匠の奥方、二人の女性が男たちの背中をそっと押すのが、とても良い。映画のテーマを、彼女に語らせる演出が心しみるのだ。


そして上映後は、メーナン監督ファンを超え、ついに配給権をとってしまった稲垣紀子さんとインドの不可触民・ダリッドの研究者 池亀綾さんの対談


「どうすれば(この映画を)
 日本で公開できるんですか」


“YOU CAN BUY”

連絡先教えといたから、そっちと
コンタクト取ってみて。
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南インド料理店 “なんどりマダム”紀子さんはコロナ禍に南インド映画のオンラインファン・ミーティングに参加した。
そうして、メーナン監督じきじきに紹介された超大物・映画会社の会長は、”キミに売るよ”と、快諾してくれたとか。

⚫︎自分の手が届く金額だった(円高)
⚫︎配給会社が決まってなかった(コロナ禍&伝統芸能ものは商業ベースにのりにくい)
⚫︎ピーターの笑顔にヤラレた(笑)
決めてとなったポイント

実際には英文の契約書を交わすまで約1年かかり、クラウド・ファンディングを行うことでSNS認知度を上げることに成功する。資金集めはもとより、ファン層を広げ、全国公開に持っていった手腕は素晴らしい。

「推し」は尊い...
を地でいく、紀子さんにリスペクトですわ。

パンフレットが沼って濃過ぎる

制作費は抑えたがホログラムだけは..


ところで、紀子さんは配給権を得たら、南インドを分かってる人・書ける人と、趣味丸出しでパンフレットを作り上げたかったと言う。インド映画愛好家から学術研究者まで、まさに南インド好きが結集し、「推し」愛が詰まった一冊。

 ⚫︎ロケ地マップイラスト
 ⚫︎登場する楽器の紹介(3頁も)
 ⚫︎カースト制度について
このパンフレットには、学びにも旅プランにも役立つイラスト・写真・トリビア豆知識があふれており、すぐれものの一冊になるに違いない。
これから映画館で観るひとは宗教視点からの高山さんnoteもぜひ一読を。

最後に、この映画を自費で購入し、日本公開・字幕翻訳はじめ関係者のみなさん、すばらしい映画を有難うございます。
そして、解説とともに無料上映を京大で最も大きいホール(!)で開催してくれた環インド洋研究センターの方々にも感謝します。

響け!情熱のムリダンガム ★★★★☆
 2018年 インド
原作・監督:ラージーヴ・メーナン
音楽監督:A.R.ラフマーン
出演:G.V.プラカーシュ・クマール、ネドゥムディ・ヴェーヌ
配給:テンドラル

※関西の一般上映は来年1月より

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