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ドライブ・マイ・カーと響きあう言葉。

いま、もっとも幅広い役を演じることができる日本人男優は誰か。

 30代なら綾野剛か小栗旬、60代なら役所広司、40-50代・ロマンスでも父親役でも違和感ない中間世代の40-50代なら、西島秀俊。間違いない。「あすなろ白書」のお坊ちゃんだがLGBT役という複雑な立ち位置からの、医者・刑事・時代劇・ヤのつく職業・弁護士・エプロンの似合う主夫。どんな役でも、いるいるそういう人、と現実味を感じさせる彼の演技力の確かさに、異論を唱えるひとはいないだろう。

そんな西島秀俊主演・村上春樹原作の映画「ドライブ・マイ・カー」

 冒頭、マレーシア語が聞こえ、え? となった。
主人公の男が主宰する演劇「ゴドーをまちながら」での男優の語るセリフである。後に、男優はインドネシア人でインドネシア語で演じていたとわかるのだが、この映画にはさまざまな言葉/音がたくさん出てくる。

・中古のサーブを運転しながら、妻が脚本を下読みし録音したテープを、カーステレオで流し、聞き入る。
・演劇の稽古中、英語で、中国語で、インドネシア語で、日本語で、読み合わせする出演者たち。
・妻が絶頂に達する時のあえぎ声と、余韻の中で語る空想ストーリー

どれもが言葉でありながら、まったく意味が分からない「ただの音」としてとらえられる側面も持ち合わせる。

それでも、いくつもの言語が交わり、響きあう、または無言の車内の中で互いの体温を感じる共鳴の瞬間があり、いま同じ時間と空間をわかちあってる、と思わせる何かがあったはずなのだ。

岡田君のイケナイ悪男ぶりや、みさきの癒えない傷や、手話で会話する演者など、どれも原作にはなかったが、映画の血肉となる表現だった。「家福」という姓なのに、幸福な家庭に恵まれず孤独に生きるなんて、皮肉な男だよな。妻の名が「音」というのも何かの暗示のようだ。
3時間近い時間を長いとは思わなかった。じわりひと言、観て良かった。

ドライブ・マイ・カー 2021年・日本 ★★★☆彡☆

監督・脚本:濱口竜介  原作:村上春樹
出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生

(予告編)→ https://youtu.be/_XwD05Nacoo

実は、原作は入院中に親友が差し入れてくれた一冊だった。家族に会えないまま逝きたくないなぁ...と病室で読んだのを思い出す。

#映画レビュー #ドライブ・マイ・カー #村上春樹 #西島秀俊
#映画感想文

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