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やまあいの煙/推し,燃ゆ/コンビニ人間。芥川賞ぜんぶ読む

ちょうどひと月前の2月上旬、私はマレーシアへ出張兼親戚訪問で渡航していた。空港の待合でSNSを流し読みしているときに「韓国人が日本で1番行きたい場所は?」と言う記事があった。
内容をかいつまむと、こんな感じ。
 __韓国人が最も行ってみたい日本の場所は「コンビニ」だ。その理由は、オリジナル高品質の食品や飲料が理路整然と並べられており、清潔で明るく、店員は親切で優しい__
「ふうん、なるほどなぁ」。とうなずいたが、私自身はコンビニへあまり行かない。とくに夜間のライトは眩しすぎてコンビニの前を通らないよう避けて帰るくらい。コンビニって世間ではそんなに人気があるんだ。

 そうしてマレーシアに到着し、早速日用品を買いにホテル隣のコンビニに入店し驚いた。

・「いらっしゃいませ」の挨拶がない
・陳列棚に並べられず、床に直おきの商品があるのに、店員はスマホをいじっている
・買上商品をキャッシャーに持っていき、はじめて「あぁ買うのね⁉︎」と顔を上げてもらえる
・「ありがとうございます」の挨拶はあった(さすがに)w

マレーシアのコンビニは、日本とは次元が違い過ぎたわ。


コンビニ人間
  村田紗耶香


主人公はちょっと変わった女性。大学生の頃からコンビニでアルバイトを始め、開店当初からの生き字引として15年間きっちり働いている、ただし社員ではなくアルバイトとして。
週1回の休みも、品出し時刻やフライヤーでの調理時刻、夕刻の弁当陳列などコンビニの時間軸を体内時計とし、明日早朝出勤だから体調を崩してはいけない、と早めに就寝する。
スタッフの会話に影響を受けたり、持ち物を真似たり、狭い世界で生きづらくならないように、すべてコンビニ式で生活するのはなぜか?

楽だから。考えなくていいから。誰にも迷惑をかけずにすむから
そんな風に受動態の彼女が、最後に自分で決める道とは… 
●155回 2016年上半期芥川賞  29冊目/111


推し、燃ゆ
  宇佐見りん


推しが燃えた。

この六文字からはじまる、ひりひりするような、風がふき荒れているような、個人感情が渦まくアイドルのファン小説。同じく、軽い発達障害(たぶんADHD?)女性が主人公。
SNSや生配信やバンドメンバー内の選挙や、地下アイドルに乗換えなど、今どきの若者事情が盛り込まれており、中年おばちゃんには共感はできないながらも時代を感じることはできた。

終わるのだ、と思う。こんなにもかわいくて凄まじくて愛おしいのに、終わる。(中略) この先どうやって過ごしていけばいいのかわからない。
推しを推さないあたしはあたしじゃなかった。推しのいない人生は余生だった。


それでも最後に光明はみえる。
2020年の作品だが、2016年の「コンビニ人間」と酷似しているような気がした。

●164回 2020年下半期芥川賞  30冊目/112

やまあいの煙
  重兼芳子

たしかに昔から忌み嫌われる職業はあった。
刑務所の看視だったり、税務署員だったり。
葬儀に関するお仕事もそう、ただ「おくりびと」の映画ができたあと、少しは変わったかもしれないが。

生前のその人のことを想って、ていねいに、心をこめて最期を送ってさし上げよう、とかまに火をつける敏夫。
なんでも自動化やAIまかせの現代には、”ていねいに心をこめて” が非常に稀で美しいおこない、と気づかされる。
昭和の時代に脈々と受け継がれてきた日本人の心得が、ここにあった。

●81回 1979年上半期芥川賞 31冊目/112



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