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『紙のこれまでとこれから』

これは大学生の時に書いたレポートを手直ししたものです。
なかなかいいレポートなので、卒業したから公開しようと思います。

紙のこれまでとこれから

1. 初めに

 紙は情報の記録媒体として本やノート・手紙などはるか昔から長い間、世界各国で愛用されている。
 それ以外にも紙袋・紙コップ・ティッシュペーパーなど、紙には様々な役割があり、私たちの生活は紙で溢れている。

 その一方で、電子書籍やインターネットを利用して情報のペーパーレス化も広まっている。
 長年、記録媒体として情報社会を支えてきた紙について見直してみたい。

2. 紙の歴史

紙は後漢時代の蔡倫によって作られたと言われてきました。
しかし、1989年に中国甘粛省放馬灘の古いお墓より、前漢時代のものと思われる紙片を発見された。

これには山や川、道が描かれており世界最古の紙とされている。
その事により、蔡倫は紙の作り方を発明した人ではなく、紙の作り方をまとめた人となった。
 蔡倫は紙祖、蔡倫の方法で作られた紙を蔡侯紙という。

 昔、使われていた主な紙は、以下のものがある。
・エジプトの植物をつぶして平らにしたパピルス
・小アジアやヨーロッパの羊や子牛の皮を用いたパーチメント(羊皮紙)
・インドやパキスタンのパルミラヤシや棕櫚の木に似たコリハヤシの葉を用いた貝多羅葉
・オセアニアのタパ、
・メキシコの無花果の木の樹皮から作られたアマテ
・台湾の通草紙

 原料で比べると蔡侯紙は穀物、麻、苧麻の繊維からできている。
パーチメント以外は植物を用いているが、繊維レベルに分解しているのは蔡倫のものだけである。

 蔡侯紙はシルクロードを経由して世界中に広まった。
900年代にエジプトやギリシャではパピルスから紙に代わっていった。
その後ヨーロッパでも手透きの紙の生産が始まったが、ヨーロッパでは原料に恵まれなかったことや、印刷技術がなかったため需要がなく、パーチメント以上の質の紙は作られなかった。
1450年ドイツでグーテンベルクの活版印刷術により紙の需要が拡大し、機械式の製紙法が始まった。

 日本では600年頃に紙が伝わり、飛鳥時代以来唐紙を輸入していた。
平安時代にゆすりながら紙層を形成する「流し漉き」が確立してからは、和紙の製造が盛んだった。
明治時代にペンの使用と洋紙の製造法が広まり、和紙の需要は少なくなった。

紙の材料は、和紙にはコウゾ・ミツマタ・ガンピなど、植物の皮を用いてきた。
現代、多く使われている洋紙は木材を利用して作られている。
日本の紙は64%が古紙から作られており、20%が木材からである。

3. 紙の特徴と用途

紙の特徴として一番知られていることは、加工しやすいということだ。
折る・切る・貼る・曲げる・重ねる・書くなど、様々な加工が誰でも簡単にできる。

紙の種類にもよるが、比較的安価で入手することができるのも、紙が広く利用されている一因ではないだろうか。
また紙一枚だと薄くて軽いということも使い勝手の良さにある。
しかし体積があるため、薄くて軽くても何枚も重なると保存に場所を取り重くなる。

そして紙の最大の特徴はリサイクルが可能な事だろう。
先ほど書いたように、日本の紙の64%が再生紙である。
繊維を解いたり、絡めたりすることで何度でも紙をリサイクルできるのだ。

紙の主な用途として「書く」「包む」「拭く」の3つの役割がある。
 「書く」は一番親しまれている用途であろう。
昔から紙は記録媒体として用いられていることは、放馬灘のお墓から見つかった紙片に地図らしきものが書かれていたこと、パピルスやパーチメントなどに残る記録からも考えられる。
 「包む」は現在でも紙袋や段ボールを利用したり、食器などを包んだり、牛乳パックなどで多く利用している。
印刷次第で様々なデザインを多様に作り出せるため、ラッピングに包装紙は欠かせないものだ。
「拭く」はテッシュやトイレットペーパー、キッチンタオルなどがある。
紙の吸水力や通気性・繊維の解ける特性を生かしている。

その他では使い捨てできるということで、紙コップや紙皿は多く利用されている。
レジャーなどで紙皿は持ち運ぶのに手間がかからず、紙コップはコンビニやカフェのテイクアウトのコーヒーカップに使用されている。

加工のしやすさから、日本の文化のひとつともいえる折り紙は別の形を作り出すペーパークラフトの先駆けである。
また和紙は通気性の良さから、古くから襖や障子などのインテリアに使用されてきた。
温かく優しさのある質感から、照明器具として、今も国内外問わず多く使われている。
「紙衣」という紙でできた服なども日本には古くからある。
繊維の強さから夏の夜を彩る花火を作るときにも利用されている。

4. 紙の現在

今まで紙が担ってきた役割は、電子媒体に移ってきている。
手紙はメールになり、図書は電子書籍になっている。
これまで手書きで行ってきた、漫画の作画もコンピューターで行う人が増えてきている。
身近なことで言えば、大学のレポートも紙でなくインターネットでの提出がある。

一方、現在一般的に使われている洋紙は手軽に手に入るため、紙の無駄遣いが問題となっている。
日本の一人あたりの年間紙の消費量は世界で五番目に多い。
リサイクルできるといっても、大量に消費していいというわけではない。

 洋紙がたくさん使われているのに対して、和紙の需要は少なくなっている。
しかも後継者不足で、技術が途絶えつつある。
しかし2009年にユネスコの無形文化遺産に「和紙:日本の手漉き和紙技術」として、石州和紙・本美濃和紙・細川和紙が登録された。
世界中でも和紙ほどの良質な紙を作れるのは日本しかないということで、政府も積極的に支援をしている。

5. 紙のこれから

 筆記具の一つとして利用されてきた紙は、その特徴を生かして新しい素材として注目されている。
和紙の強さをそのままに、防水加工を施したカバンを作ったり、音楽の分野で紙を使った楽器や破る音を新しい音として利用したりしている。
また、全く新しい紙として「セルロースナノファイバー」というものがある。
紙の繊維を細かくしたもので、これは鉄の5倍の強さがあり、プラスチックなどに代わる素材として注目されている。まさに未来の紙である。

 紀元前に作り始められた紙は改良を重ね、現在使われるものとなった。
人の歴史と技術の進歩により、紙の性質も変わってきた。
これからも技術進歩はますます加速していくだろう。
紙もますます変容して、いつの日か全く違うものになっているかもしれない。


〈参考資料〉
『紙のおはなし』原啓志著 日本規格協会 1992年6月
公益財団法人 紙の博物館 2017年12月3日訪問
クローズアップ現代+ 2016年1月12日放送
(http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3751/1.html)
2017年12月11日閲覧
『世界遺産になった和紙① 世界に誇る日本の和紙「和紙」とその文化背景を考えよう!』 紙の博物館監修 新日本出版 2015年

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