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“しゃべるのが苦手” が役に立つ時

私はしゃべるのが苦手です。


何かを聞かれてもパッと言葉が出てこない。

楽しい話題を振ることができない。

気の利いた返事がすぐに思いつかない。

声にするのに時間がかかる。

準備しないと、しどろもどろになる。

雑談を文字通り雑にやることも難しいですし

食事は基本的に黙食です。

出来るだけ話しかけられないように

休憩時間には本を読んでいます。


しゃべるのが得意な人が羨ましい。


あんな風に食事しながら楽しそうにおしゃべりできたら

口からパッと言葉が出て相手を笑顔にできたら

先頭に立って、みんなをひっぱるような発言ができたら

あの人のようにすらすらと説明できたら

誰かと比較して

自分のダメさを自覚してしまいます。


書店に行くと

「コミュニケーション」や「会話術」のコーナに目がいきます。

何冊読んでも

実際に人を前にすると

意識し過ぎて、喋りが余計に変になります。


そんな自分ですから

しゃべるのが苦手なのはマイナスで
改善しないといけないこと

そう思っていました。



あの日


スタッフの言うことを聞かないと言われている患者さんが

病室で会話をしている声が耳に入ってきました。


「若い人は話すのが早くて、なに言ってるかわからないんです。」

「ほんとですよね。年をとったら頭が回らんのですよ。」

「あんなに早くしゃべられちゃね。困ったもんですわ。」


てっきりケアされることを拒否していると思っていた私は

伝えたいことが伝わっていない可能性に初めて気づきました。


それ以降、他の患者さんもよく観察していくと

普通の速さで会話したり、理解することが困難な人が

大勢いることが分かってきました。


難聴のある高齢の方

認知症の方

高次脳機能障害(脳の障害)がある方

意識がはっきりとしていない方

精神的に不安定で心が落ち着いていない方


普通にしゃべれるからといって

得意だからと言って

相手に伝わるわけではないのです。

相手の声を聞かないことで

間違って解釈しているだけかもしれないのです。


逆にしゃべるのが苦手なスタッフ

ゆっくり話すスタッフの方が

会話になっていることに

見ていて気づきました。


あの日から

私の考え方は変わっていきました。



今日も

いつものように患者さんの前で

うまくしゃべれませんでした。


その方は、一人で動くことが出来ません。

自力で食事をすることもできません。

体を治すことは出来ない状態です。


私は、何を話していいか分かりませんでした。

出来るのは、ただ横にいるだけです。

日付や時間を確認したり、一緒に空を眺めたりしました。


これでいいのだろうか、と思った私は

今どういうお気持ちですか?と

率直に質問してみました。


すると「幸せです」と

答えてくださったのです。



“しゃべるのが苦手”が役に立つ時


しゃべるのが苦手な人は自分だけではありません。

スピードの早い会話についていけなかったり

よく聞き取れなかったり

聞いたことが頭の中で整理できなかったり

話を聞く心のゆとりがなかったり

普通に会話をすることが

負担に感じる人もいます。


そういう時は

ゆっくりゆっくりがいいんです。

言葉がたどたどしくてもいいんです。

むしろしゃべらなくたっていいんです。


ただ横にいてそれぞれ何かをしたり

一緒に黙々と作業したり

同じ景色を眺めたり


それだけで ありがとう と言ってくれる人がいます。


しゃべるのが得意な人の役割

しゃべるのが苦手な人の役割

それぞれあるんだと思います。


明日からもまた

自分の役割を果たしていこうと思います。





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