見出し画像

いつでも笑みを

先日suzuさんのnoteを読ませて頂いた。
内容は、お母さまの遺影についての記事だった。
それを拝読して、思いだしたことがあるので書いてみようと思う。

(suzuさんのnoteは見ているととてもお腹がすいてきます。そして良い意味でいろいろと考えさせられることも多い。suzuさんの手作りお菓子をあるルート〈お友達noterさんですよ〉で頂いた事があるのは少し自慢だったりする。とても美味しかった!のです。)

この記事は若くして亡くなったsuzuさんのお母様がご自身できちんと遺影を準備されていたこと。その写真が普通にイメージする遺影とは違っていてとても素敵なものだったこと。suzuさんのお知り合いのクリエイターグループにお母様と同年代の方がいらっしゃって、その方もご自分の遺影を撮影していることなどが書かれていた。

とてもいいnoteだな、こんな風にsuzuさんは感じていらっしゃるのだなと読んでいて胸があったかくなった。


コメント欄にも書かせて頂いたが「遺影」と聞くと...私は以前勤めていた職場の利用者さんたちを思いだす。

以前勤めていた職場は、介護保険の入所施設で、デイケアも併設されていた。毎日日替わりで通いの利用者さんがいらしているデイは、大変にぎやかな雰囲気であった。

利用者さんのお誕生日月になると、デイケア職員は毎年利用者さんのお写真を撮影して、色紙に貼ってプレゼントをしていた。

色紙には大きくお名前が書かれている。達筆な字を書く職員さんが、下書きを何回かした後に、思いを込めてしたためる。
その横には、折り紙や千代紙でカラフルに季節のものをあしらえる。写真を貼ってそれで色紙は完成となる。

私はデイケア職員が夕方の送迎後に、その例の色紙を作っている場面を見るのが好きだった。

職員何人かで話し合いながら「この色がいいかなぁ」「○○さん今回いい顔して写ってるじゃん」などと穏やかな雰囲気で作られている空間がとても心地よくて、デスクワーク中でも用もないのに見に行ったりしていた。

写真撮影もまた楽しい。

誘われた利用者さんの反応もまちまちで
「あれ?もう誕生日だっけ?」と忘れている方もいらしたり
「いい顔じゃないからさ」と恥ずかしがる人もいたり
「カツラ持ってくるから」と孫様にプレゼントされた黒々としたカツラを自ら持参される方もいらした。

撮影場所は、晴れた日はお庭の花々の前だったり、雨の日は玄関で行われていることが多かった。私は撮影している人を見かけると、リハ中の利用者さんとひやかしてみたり、応援したり、表情が硬ければわざと変な顔をして笑わせてみたり、それはそれで楽しんだ。

職員も女性の利用者さんだと、希望された方にはメイクをほどこしたりしていた。
「私こんなにきれいだったかしら?」
「お嫁にもらってもらおうかしら」などと冗談を言ったりしながら、いつもよりちょっぴりよそいきの顔でうつる女性利用者さんたちのあどけなさに、私は胸を打たれることが多かった。その表情や仕草に、いちいちキュンとしていた。

お写真を渡す時は、帰りのご挨拶の時間。

職員が「さて、今日は誰かの誕生日です。誰でしょう?」というかけ声から始まり、ハッピーバースデーの歌と共に手渡される。

渡された人は照れくさそうにしたり、写真をまわりの人に見せたり、今年の抱負を話してみたり、やはり反応はまちまちであった。

そんな、毎年恒例のお誕生日の写真は、デイに通う年数が多くなる度に増えていく。

多い人は5枚以上持っていたりして、お家に飾って下さっている方がほとんどであった。

ご家族からの評判も大変良く、送迎でのお迎え時に「こんないい顔して写っていて良かったね」と喜んで下さる方も見受けられた。


ここで遺影の話にうつりたいと思う。


すでに話の流れから想像している方もいるかと思うが、この「誕生日の写真」が遺影に使われることが非常に多かった。


私がそのことに気づいたのはデイケアに勤めて数年経ってからだった。


ご利用中の方が亡くなってしまった場合。その頃はまだ感染症の気配もなかったので、デイケア職員は主任を代表として、告別式が落ち着いた頃にお線香を上げに行くことがあった。

私たちリハ職員は、その方を自身が担当していた場合、日程が合えば同行させてもらっていた。

そんなことを繰り返している中で気づいたのだ。

デイの誕生日の写真が、遺影に使われる率の異様な高さ。

ご家族は「こんなに笑顔でまっすぐ向いていて、1人だけ写っている写真ってなかなかなくて...素敵だから使わせてもらいました。」と大体話される。

そして、同時に気づいたのは

私たちが、段々年を重ねるにつれて、写真の被写体になる機会は圧倒的に少なくなってしまうこと。

ましてや、病気をして...障害を持って....車椅子移動になって....という状態なら、なおさら写真には撮らなくなるばかりである。

しかし、デイに通っていることで、こんなに朗らかな笑顔になれること。
この誕生日の写真は、家族にとっても貴重な一枚であり、家族も知らない笑顔やその人自身の一部でもあったりする。

私はそのことに気づいた時に、主任さんに話してみた。

主任さんはその事は意識されているようで「だからこれは続けたいよね」と話していた。

私は、そんなことまで考えて仕事をしている介護士さんたちを日々尊敬していた。

利用者さんの笑顔には、両者の普段の関係性が表れている。
素敵な笑顔を引き出すコツは素敵なケアができているかどうか。

それが結果に表れていると思った。


近くに高齢者の方がいるご家族や、ご友人でもかまわないが、機会があれば、普段の様子を写真に撮ってあげてほしいなと私は思う。

そして、できたら写すカメラマンは、その方が大好きな方だとなお良い。

写真は心を写す鏡のようで、その笑顔は向こう側にいる人に必ず投げかけているからだ。


私ももし、この世から離れてしまうのであれば、好きな人には笑みを残しておきたい。


いつでも笑みを。


まず最初に
笑みを思い浮かべてしまうような
思わず微笑んでしまうような
時にはにやにやしてしまうような

そんな瞬間を
あなたを作りたいと
私はこれからも願っている。


この記事が参加している募集

サポートは読んでくれただけで充分です。あなたの資源はぜひ他のことにお使い下さい。それでもいただけるのであれば、私も他の方に渡していきたいです。