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シネマノスタルジア【ネコと従業員たちとロック】

20年くらい前に、私がアルバイトをしていた映画館のお話を書いています。

今回で3回目です。
前回はこちら。

今回は映写技師さんのお話を書こうと思ったのですが、その前に従業員の話を書いた方が良い気がしましたので、今回はそのお話をしたいと思います。

前々回のおさらいですが、映画館は3つありました。

【A館】
本屋さんとオムレツ屋さんに囲まれた映画館。専務(雇い主)が大体常駐している。なので、専務がいる時はまじめに働いている(フリをする)。おやつのショーケースが充実。一番映写機が新しく、アルバイトレベルでも簡単な操作は可能。従業員は若い子が多い(大学生とか)専務のお気に入りの子が配置されるのでは?という噂があった。(あくまでも噂ですよ。専務はそういうデレデレするタイプの人には私には見えなかったです。)
【B館】
うちの市のメイン通りに面している。しかしシャッター街になってしまったため、人通りは少なめ。一番建物が古く、汲み取り式のトイレだった。従業員はなぜかおばちゃん率が高い。おせんべいがいつも置いてあるイメージ。映写技師がいないとフィルムのつなぎができない。
【C館】
隣が銭湯。ゆえに銭湯の男湯に入っていると映画館の音が丸聞こえという噂があった。一番街からは外れたところにあった。近隣に寿司屋やスナック通りがある。ここも映写技師がいないと上映できないタイプ。昔は任侠者の映画を上映していたが、私が働いていた当時は子供アニメを上映することが多く、客席数が一番大きい。春や夏は稼ぎ頭となる。従業員はフリーターみたいな20代位の女性がメインだった。専務がほとんど来ないので好き放題遊べる。

私はこのC館に配置されることが多かったです。
アルバイトはどの館も2人体制でした。(映写技師は除きます)
アルバイト従業員は全員女性で、年齢層は当時は私が1番若くて(17歳)1番年上の方は70代くらいの方がいらっしゃいました。
C館の従業員は私より先輩で年上の20代のお姉さん方が2名いらっしゃって、良く面倒をみてもらっていました。そのお2人を今回はご紹介します。

1.山田さん(仮名)

何で山田さんかと言うと、仲間由紀恵さんが演じていた「trick」というドラマの主人公の「山田さん」というキャラクターに雰囲気が似ていらっしゃったので、山田さんにします。

山田さんは長くて黒いきれいな髪の毛が特徴の、日本的な美人のお姉さんでした。
口調は大変穏やかで、普段からも声を荒げることなどなさそうな印象でした。

入ったばっかりの仕事のわからない私にも、懇切丁寧に穏やかな口調で教えて下さったのを覚えています。

そんな山田さんですが、よい意味で性格に一癖も二癖もありました。

まず、横柄なお客さんなどがいると帰った後に

「ふふふ、頭でも打って死んでしまったらいいのにね。」

とよく笑顔でつぶやいていました。口調は穏やかなままです。

また、あんまり言う事を聞かない子供のお客さんがいても、小さな声で聞こえないように

「うふふ、このクソガキ」と言ったり

あんまりにも態度がひどい人がいると

「えへへ、昨日も神社で藁人形を打って来ちゃった♡」

とやはり穏やかな笑みをたたえて言うのです。

また、彼女はよく巨乳ネタを口にしていました。

傍目から見ても痩せ型の彼女は、お世辞にもあまり豊かな胸ではなかったのですが、

「あー今日もこの巨乳のせいで肩がこったわ」と言ったり、映画に映されている外国人女性の胸と比較して「私よりは小さいわね」と言ったり「みんな私の胸に釘付けなのね、困っちゃうわ」とニコニコしながら言うのです。

冗談を普段のトーンと同じくらいの調子で言うので、私も最初はびっくりしたのですが、段々慣れてきて相槌やつっこみを少しずつ入れられる関係になりました。

一番彼女が輝いていた、かつ、燃えていたのは、野良ネコとの対決です。

映画館の横の道はスナック街だったためか、野良ネコがたくさんいたのです。

そのうちの1匹にえさをやることを山田さんと映写技師さんは日課にしていました。

そこまではいいのですが、野良ネコは山田さんのちょっと変な癖を見抜いているのか、あんまり懐いていないようでした。

山田さんは何とかネコに懐いてもらいたいのか、あるいはちょっかいを出したくてしょうがないのか

背中に餌をのせて惑わせたり

映画館のチケット売り場の受け渡し口にえさを置いて、ネコがおそるおそる取りに来たところを背後から追いつめたり

動物愛護団体からクレームが来てもおかしくないような、珍行動や謎行動をくり広げていました。

それが1人目の先輩の山田さんです。

2.ロキノンさん(仮名)

彼女はその名のとおり、ロキノン系の
(ロック系の音楽雑誌「ROCKIN'ON(ロッキング・オン)」や「ROCKIN’ON JAPAN」に出てきそうなバンドの総称)
バンドやインディーズのバンドまで、四六時中ライブに行っているようなロックなお姉さんでした。

髪の毛は金髪に近い茶髪で、雰囲気はPUFFYの由美ちゃんに似てました。タバコを吸っている事を親に内緒にしていて、勤務時間中も映写技師さんがいない間を見計らって「ちょっと一服いいかな?」と私に断りを入れて吸っているようなやや素行不良なお姉さんでした。

彼女も私にはやさしく接してくれました。いつも山田さんのツッコミ係として「なにそれ超ウケる!」と笑顔でまわりを盛り立ててくれていました。

彼女は映画上映が早めに終わる日があると、そそくさと電車に向かっていきました。「今からライブに行ってくる!超楽しいよ!」といつも笑顔でその様子を教えてくれました。

そういう日は彼女は黒いリュックサックを持っていて、フレアーめの帽子をかぶって、かっこいい大きめのTシャツに色が派手目のボトムスで、ピアスをしていました。

私はその格好に憧れて一時期マネをしていたような気がします。(さまにはなっていなかったし、ピアスもしなかったですけどね)

ライブはモッシュやダイブをする激しいものがお好きだったようで「汗かくから着替えが必要なの」という理由でリュックサックだったようです。

そんな彼女と一回だけ誰にも内緒の悪ふざけをしたことがあります。

それは「館内に自分の好きなロックやスカやパンクの曲をがんがんかけてしまおう作戦」でした。

映写技師さんが来ない間を見計らって、映写室に忍び込み、朝の掃除の時間に、彼女は自分の好きな音楽を流し始めました。

私は当時、彼女にいろいろな音楽を教えてもらっていました。
館内に重低音と爆音で曲が響きわたります。教えてもらったばかりの曲の音色を思い出しながら、2人で座席に腰掛けてウキウキと聞いていた風景を私は今でも思い出すことができます。

しかし、残念なのは、この時誰の何の曲をかけていたのか思い出すことができないのです。(KEMURIが好きだったのは唯一覚えています。でも違うバンドの曲だったような気がするのです)

このように、詳細は忘れてしまいましたが、今思い出してみてもこの時の場面は、私の中での数少ない青春を感じるような風景であったと思います。

わくわくしたし、楽しかったなー。

そんなロキノンさんのお話でした。


今日は主に一緒に働いていた従業員の方のお話でした。
こうやって書いてみると私たちはいつ働いていたのでしょうね。たぶんあんまり働いていなかったし、大半は遊び呆けていました。

私もかくれて音楽を聞いたり、漫画を読むのはオッケーだったので、堂々と漫画を読んだり(ろくでなしブルースはこの時ロキノンさんに貸りて読破しました)みんなでお話ししたり、かなり自由にやらせてもらっていた事は覚えています。

次回は映写技師さんのお話に移ります。

読んで頂いてありがとうございました。







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