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赤橙

いつだかの引っ越しのバイト。

事あるごとに怒鳴ってくるタイプの社員のあんちゃんと組まされて最悪だった。予想通り手荒くこき使われまくって気付いたら夕方になっていて、そろそろ退勤の頃合いかな?と淡い期待を抱いていたら「最後の現場に行くぞ」とあんちゃんに宣告され、渋々トラックの助手席に上がり込んでからは屍みたいに座りこくってた。

出発して程なく首都高に入って、灯りが流れていくのをぼーっと眺めていたら、ラジオから赤橙(Acoustic)が流れてきた。
ん。うわ、なんかこれ…めっちゃ良い曲だな。
少しずつびっくりするような形で五感を取り戻していくと、ビルの谷間を縫って走っていく陶酔感とか、繰り返される緩やかな重力の移動とか、意外と丁寧なあんちゃんの運転とか、段々そういうものに気が付き始めて、首都高のオレンジの灯りが急に切なく感ぜられた。

葬式ムードだった俺にこの曲は驚くほど優しく寄り添った。「ムカつくけどきっと忘れられない体験になるだろうな」となんとなく思ったりしたが、実際、そうなった。

未だにACIDMANはこの曲しか知らないけど、しこたま怒鳴られてからトラックの助手席に詰め込まれて首都高で聴く赤橙(Acoustic)は神。そういうコト。

でも最後の現場ではなぜか俺一人だけでほとんどの荷運びをやらされ、その間あんちゃんは運転席で携帯をいじっていたので、マジでくたばれと思った。

現場解散で、とっくに終電を逃していた俺を置いてあんちゃんはトラックに乗って去っていった。困り果てた俺は、もう一台応援かなんかで途中から来ていたトラックに乗せてもらってなんとか帰れた。応援トラックのあんちゃんは死ぬほど優しくて泣いた。


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