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ソーシャルワークの現状と課題(3)

日本におけるソーシャルワークとは

ソーシャルワークの理論は代表的なところで,例えばナラティブ,危機理論,エンパワメントアプローチ,ライフモデル理論などがある.しかし,現状,ソーシャルワーカーを名乗っている人たちはどのくらい自覚的にこうした理論の運用を行っているかは不明である.
そして,そもそもこうした諸理論は欧米によって生まれ,日本に輸入されてきたが欧米の人間観と日本のではそぐわない.よってこうした諸理論は役に立たないとする視点もある.
今回はその辺のことをちょっと整理しておきたいと思う.

ソーシャルワークという枠組み

ソーシャルワークは個別支援(ケースワーク:ミクロ)を含む広義のものと言われている.ソーシャルワークはその意味で,メゾマクロやマクロの視点があることになる.言い換えると個別の課題を解決させることばかりはなく,もし,その課題が既存の制度やサービスで対応できないのであれば,新規でサービスを提供するために様々な機関に働きかけたり,行政と連携して新しい制度の創設を担うなどなどのソーシャルアクションを含むことと思われている.その根底にあるのは,社会的に排除されている人々への差別への対抗(エンパワメント)や不公平への挑戦(社会正義)などを通じてより良い社会の構築のための様々な取り組みをすることがソーシャルワークと言える.

相談職はすべからくソーシャルワーカーなのか

よく言われるのが,介護支援専門員,いわゆるケアマネジャーはソーシャルワークではない言われている.そもそもケアマネジメントは介護サービスを数量的に把握して,効率的にマッチングする手法である.そのため介護保険の制度を組み合わせ介護度に応じて上限を示し,サービス提供後はモニタリングをする.個別支援中心でそこに社会正義やエンパワメントの発想はなさそうである.しかし,現場の人たちはそう思っていないし,実際に求められることはソーシャルワークである.
同様に生活保護のケースワーカーも同じである.個別支援(ケースワーク)でるが,2000年に入ってから単なる現金給付と自立助長だけではなく,日常生活や社会生活への自立プログラムの実施を行うことになっており,根底には社会的包摂への思想が横たわっている.本当の意味で生活保護のケースワーカーこそソーシャルワーク的な視点で仕事をするべきだと思う.
この他,病院の相談員は,マクロやメゾマクロな取り組みができているのか.相談職といってもソーシャルワークを念頭に置いて仕事をしているのか.どうなのかというのはそれぞれの資質もあるし,組織としてどうとらえているかという違いがあるかと思う.

ソーシャルワークの導入と日本

そもそもソーシャルワークの思想は戦後すぐにGHQによってもたらされたと言われている.GHQが民主化を進める上でソーシャルワークの思想は適切であったとされた.
その後,日本の学者も欧米のソーシャルワークの理論を輸入する形で日本に紹介し,発展していった.確かに欧米によるソーシャルワーク理論は国際的なものとして人間共通の問題として考えても良いとする一方で,盲目的に偏っているといった批判もあった.またソーシャルワークの技術の導入や発展は,専門的技術に適合する部分的問題のみを切り取って援助する.あるいは,ワーカーの自己完結的な行為になってしまうことへの批判がされていた.なにより,こうした人間共通の問題や国際性が,日本の風土や価値観に適合する形で機能しうるかが問われていないと言える.

日本のソーシャルワークとは何か

これが日本独自のソーシャルワーク理論であるというのはなかなか断じることはできない.手の届く範囲で紹介すれば,
空閑浩人(2014)『ソーシャルワークにおける「生活場モデル」の構築』ミネルヴァ書房
この本は,日本人は欧米に比べて個の主体よりも場を大事にして,場を構成する世間や地域への意識を強く持っている.そのため個の主体性は場においては受け身になる.また,人間関係は,間(あわい)としての関係志向性となる.よって,利用者と援助者という関係だけではなく,例えば作業場の雰囲気やそこにおける関係性なども把握することが大事であるとする.日本におけるソーシャルワークとは何かを正面から考えたエポック的なものである.

頼尊恒信(2015)『真宗学と障害学』生活書院
生活の困難をどのような視点で見るかという意味でソーシャルワークをとらえたとき,日本が生んだ偉大な思想家:親鸞から,社会福祉がどのような切り口で援助するべきかを問う内容となっている.
宗教福祉は昨今あまり社会福祉の分野では扱われていないが,社会事業から連綿と続く社会福祉の根底を支える水脈であると言える.これもまた日本におけるソーシャルワークのあり方を示していると言える.

この他,尾崎新(2002)『「現場」のちから』誠信書房
窪田暁子(2013)『福祉援助の臨床』誠信書房など日本ならではの発想で論じられた書籍がある.ぜひ,目にする機会があれば立ち読みでも良いので手に取ってもらえると良いかと思う.

おわりに

日本におけるソーシャルワークについて大まかに述べたが,その詳細はおいおい機会があれば書いていきたいと思う.ソーシャルワークを理論としてとらえる場合と,ソーシャルワーカーとしてとらえる場合ではニュアンスが若干違ってくる.前者は様々な理論の内容が問われ,後者はそもそもソーシャルワーク実践とは何かと言うことが問われる.それらが混合されて,実践に理論が伴ってないとか,理論は役に立たないという事になっているのではないかと思う.
私はソーシャルワーク的な視点をもってケアワークもケースワークも見ていく「発想」が大事ではないかと思っている.そのソーシャルワーク的な視点とは何かを何回かに分けて考察した.
次回以降は,ソーシャルワークに必要な連携やソーシャルアクションなどについて述べていこうかと思っている.

参考


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