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シラフで語れず、酔ったフリしかできなかった

たしか10年くらい前、
新宿二丁目でナイトイベントがあった時、
僕は誰かとお酒を飲み、ふらふらしたまま会場に向かった。

隣に誰がいたのか、どんな会話をしていたのか、
どうやって出会い、
そして会わなくなったのかは覚えていない。


この街は、出会いと別れのスパンが早いな、
と思い始めた頃だった。

この時の感覚をいまだに覚えているのだが、
あの瞬間、完全には酔っていなかった。

というか酔ったフリをしていたのだと思う。

その方が都合が良かったのだ。

会場に着き、階段を降りるとき、
たしか当時20代後半の知り合いから、

「もういいって、そういうの誰も求めてないから」

と言われた。


今まで何度かバーやナイトイベントで出くわした時、
僕はいつも酔っていた。


でもそれは嘘で、
正確には酔ったフリをしていたのだが、
今回もその姿を見て、彼はうんざりしたのだと思う。

それから、ナイトイベントでは
大音量の音楽とお酒を浴びて踊り狂ったのだが、
やはりそこまで酔っていなかったし、
ふらふらしていたのもほぼ演技だった。


寂しかった。
とりわけ理由もなく、ずっと。

会場で酔ったフリ、
ふらふらしたフリをしていると、都合がいい。


本当の自分を見られないで済むし、
会場に溶け込むこともできた。

そして何より、許されている感じがしたのだ。

でも、そんな状態の自分に対して、
「誰も求めていないから」
というナイフのような言葉を刺されて、
血がドバドバ出てしまった。


そんなことは分かりきっていた。

全てを誤魔化すために、
仕方なくそうしているというのに。


あの時の、眼差し。
軽蔑したような、見下したような目。

それに対し、酔ったフリをして、
ヘラヘラ笑っていた自分。


一体何を目指して、
どこに向かって進んでいたのだろう。

お酒は僕の中にある
根本的な問題を解決してくれなかった。

それから10年後、
片思い中の人とディナーに行き、ふたりでお酒を飲む。


相手は酒豪なので、僕もそれに合わせていく。


今度は本当に酔っ払ってしまう。


でも2割くらいは酔っていない。


僕は10割酔ったフリをして、彼に甘えてみせる。


彼は僕に対して、好意のあるフリをし続ける。


僕らがシラフのうちに話せることは、
一体いくつあるのだろうか、と思った。


お酒がないと、酔っていないと、
いや酔ったフリをしていないと、
ずっと思うように話せなかった。彼とも。

と、お酒にまつわるそんな回想をしながら、
僕のことを好きだという人とウーロン茶を飲み、
本音で語り合う。


お酒がなくても、シラフでも、
一から百までなんでも話せてしまう。


お酒を飲むフリも、酔ったフリも、
呂律があやふやになってきたフリもしなくていい。


音の少ない静かな時間が流れている。


ウーロン茶はあと少しで終わる。


夏はすぐそこまで来ている。


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