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仕事のイライラを半減させてくれた『嫌われる勇気』

「人生を変えた1冊」にこの本を挙げるのはベタかもしれない。

そう思ってしまうほど、多くの人を救ったであろうその1冊は『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)。アドラー心理学を研究している学者・岸見 一郎氏とライターの古賀 史健氏の共著だ。

(おそらく、だけど)この本を読んだ大多数の人と私が少し違うところがあるとすれば、私はこの本を読んでアドラー心理学を知ったのではなく、アドラー心理学について詳しく知りたいと思っていた時に、この本に出会ったことかもしれない。

当時の私は悩んでいた(まあ、会社員時代は常に悩みを抱えていました)。おかげさまで、私の「人生を変えた1冊」は仕事の悩みやイライラを解決したものに寄りがちなのだけど。

その頃は部下がいるポジションについていたので、悩みがあるとコーチングの本やらチームを動かす本やらいろいろ読み漁っていた。が、それらの本では一向に私の悩みは一向に解決しなかったのだ。
大海原に向かって「言い方を変えても、アプローチを変えても、丁寧に教えても、やらない人はやらないじゃんーー!!」と叫びたいほどに。

そんな時に、求めていた答えに近いものをくれたのが、意外にも「子育て」の専門家だった。よくある「自主性を伸ばしましょう」とか「愛情表現をしましょう」といったことだけではなく、「でも、やらせなきゃいけないこともあるでしょ!」の「やらせる方法」にも軽快に答えてくれたのだ。その方が教えているメソッドにミックスされていた心理学の一つのが、アドラー心理学だったのだ。

その日から、アドラー心理学について調べ始めた。その考え方を習得したくて「講座があるなら通いたい」と検索し、1冊目に読むべき本を探した。その時に「あれ、最近売れてるあの青い本、アドラー心理学なんだ!」とその存在に気がついたのだ。「最近売れてるみたいだし」と手に取ったこの本が、私をアドラー心理学へと導いてくれることとなる。

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とまあ、前書きが長くなったが、本の詳細は他の記事に譲るとして、当時のストレスフルな私が『嫌われる勇気』のおかげで、特に救われた考え方をご紹介したい。ついイライラしちゃう方にはおすすめです。で、それが何かって言うと、

「課題の分離」

何と言ってもこれ。「私の課題」と「あなたの課題」を分けること。
当たり前のことのようだけど、意外とできていない。責任感が強い人や親子関係にあるような場合は意識しないと難しい。

この「課題の分離」をわかりやすく表現してくれたのが、次の諺だ。
「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」
これはイギリスの諺らしいのだけれども、この言葉もものすごくマインドリセットに役立った。まさに、当時の私と部下の関係で悩んでいるのがここだったのだ。

「ライターになりたい」と未経験で入社してきたのに、アドバイスを全く聞かない。聞かないからできるようにならない、できないからそのフォローが私に回ってくる、という地獄絵図。「こんなことをするのがこのポジションの仕事ならば、平社員に戻りたい」と心の底から願っていた。そんな私にこの諺が突き刺さったのだ。

そうか。水を飲むかどうかはその人次第なんだ、と。

この考え方を知ってから、すごく気が楽になった。教えるのは私の仕事だけど、「育つかどうか」はその人次第。そこに責任なんて持ちようがないよね。そう考えるようになって肩の荷が降りた。
「水辺があるよ」「水飲んどかなくていい?」と声はかけたんだから、いいんだ。私の役目は水辺に連れて行くこと。そこだけ頑張ろう。そう思うようになった。

この考えが役立ったのは、部下の指導だけではない。それまでは、仕事への責任感から仕事の川上から川下まで全部自分がしっかり見なければと思っていた。だから、注意喚起もアドバイスもよくしていたし、それをスルーした人が案の定ミスったりするとイライラしていたのだ。さらに、結果的に尻拭いをさせられることも多かったので、余計腹立たしく思ったりもしていた。

だけど「そこから先はあなたの課題」と明確にラインを引けるようになってから、いい意味で「私、しーらない」と思えるようになった。打ち合わせの時も「どこからどこまでが私の責任か」をきちんと確かめるようになった。そこから先の責任の所在を明確にし、「お任せしますね」と微笑む余裕もできた。そうなると、何か起きても「大変ですね」で済むし、自分に余裕があれば「手伝いましょうか」と優しい気持ちにもなれる。

これができるようになると、「無駄にお節介だった私」も見えてくる。人の領分に「介入」しすぎて勝手にイライラしていたのだ、と今ならわかる。
この事実は、鋭いナイフのように私を抉りもしたけれど、そう理解できるようになったのはよかったのだと思う。課題を分離することは、「相手を尊重する」ことにもつながるなあ、と思えるようにもなった。

本当は、課題を分離したまま、その人が自力で問題を解決していけるように援助する「勇気づけ」までできるようになるといいのだけれど、これがなかなか難しい。今も、対人関係において勇気づけがうまくできるようになったとは言えない。でも、意識して発言するようにはなった。いつか、自然にできるような思考回路になれればいいなとも思う。
(この「勇気づけ」も、私が長年抱えていたモヤモヤをスッキリさせてくれるきっかけになったので、これはこれでまた別記事にしたい)

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『嫌われる勇気』を読んで、すっかりアドラーに傾倒した私は、後にアドラー心理学の基礎講座にも通うようになる。そこで学んだのは、人との幸せな距離感や、人生において大事にすべきことたちだった。アドラー心理学についた「人を幸せにする心理学」と言うキャッチコピーは伊達じゃない、と心から思う。

ご存じのとおり『嫌われる勇気』は、今も世界中で読まれ続けている。着実に、古賀さんが目指した「100年読み継がれる本」への道を歩んでいると言える。余談だけれど、この本はオーディオブックで聞くにもすごく適しているので、耳で読むのもおすすめだ。

アドラー心理学を身につけるのには、この心理学を知った年齢と同じだけの年数がかかると聞いた。アドラーな自分になれるのはまだまだ先だと思うけれど、アドラー心理学への入り口をこの上なくわかりやすく示してくれたこの本に、心から感謝している。




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