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10.私が川端康成になったところで。

川端康成の『掌の小説』という小説集の『化粧の天使達』という作品に出てくる一節。
「別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます。」

つまりこれは美しく残酷な呪いだそうなのだが、どうやら呪いも発動しない人種もこの川端康成と同じ日本人でもいるらしい。

私は今年齢30にもなったしと、激安お見合い婚活を始めたのだが時期が悪かった。なんという疫病。なんという自粛。なんという引きこもり。忌々しいあのウイルスの名前すら最近では申し上げたくないのでキテレツ大百科にはなんの恨みもないのだが「コロ助」と私は呼んでいる。かの有名なコロッケの作り方ソング~キャベツ無し編~が脳内に流れる皆様は私と同レベルというか同年代と言うか、喜ばしいことに通じてよかった。

不要不急にお見合いが入ると国会のおっさん方に言われると猛然と反論してさしあげたいところだが、人命に関わるのだと考えると口をつむる。

緊急事態宣言が出る前に同郷の、高校が隣だった、昔は顔面がピアスまみれ野郎だったという今はいたって普通のゲームオタクな彼に出会った。
喋り倒した初回は久々にドキドキしたし、お見合いの返事がお互いYESならいいのにとそわそわしながらシステムをしょっちゅう眺めた。

翌日仕事の10分休憩で非常階段で煙草を吸っていたら返事が来ていた。
「YES」だった。思わずお茶をひく先輩たちに報告したくらいには嬉しかったし「この人なのではないか」と若干ときめき、期待し、早くシステムでメールが送りたいと思っていた。

飄々としている彼はやはりメールでも飄々としていた。
「飄々って書ける?」「票に風って覚えたから完璧☆」「絶対覚えたことを忘れて書けないとか思うタイプでしょ」「そーかも」
そんなゆるくてゆるくて田舎の老夫婦かよみたいなやり取りをして。

でもね、違ったんだって。
確かに「結婚前提に付き合おう」って言われて、真剣交際に進めて、私も嬉しかった。でも彼はもっとときめくしこの子に恋するしこの子と結婚したいって思うんだろうと思ってたんだってさ。
でも実際は普通。ずっと普通。何も変わらない。何かがおかしい。なんでだ。そうなったんだってさ。

私とちゃんと話し合おうとしない、私に質問も何もしない、私の質問も受け流す。なんか違ったんだろうか。何か間違ったんだろうか。
怖いけども長文気味のLINEを送った。「どう思ってるのか話したい」と。

「好きだと思ったしもっと好きになると思ったけど、そうじゃなかった、なんかずっと普通だった、楽だけどこれでいいのかわからなくなった」

そしてあとは私の収入の話だった。私は現在障害者年金がおりるかどうか申請結果待ちで、年金がおりるならば障害者雇用で無理なく働ける職場に正社員で勤めたいと思っている。通常申請結果が解るのは3~4ヶ月なのだがこんな時期なので伸びるのは想定内。2月に申請したのでまだ2ヶ月だ。初夏までは待つつもりでいた。だからこそ古巣にバイトで戻って、事情を話し無理ない頻度と時間と業務内容で、私はリハビリを、店舗は助っ人をとWin-Winの関係でいるのだ。

当然バイトで無理ができないので月の収入は5~7万円程だ。
「僕が高給取りなら良いけどそうじゃない、これじゃあ子供作れん」
そうだね。正しい。何も言えなかった。その通りでしかなかった。
精神の障害があってバリバリに働けなくて、足の病気があって通院が出来るような働き方といえばシフト制で、シフト制の多くはサービス業で、サービス業は薄給だし残業はあるし、ボーナスは寸志レベル。あなたの会社のように「普通の30歳の年収」にはならない。(弊社で正社員で働いたとしても年収300に乗らないくらいでもまだ良い方という感じ)

つまるところ、話し合うまでもなく、条件でもはや「無理」で「仕方のない」2人だったのだ。彼は27歳くらいから結婚相談所に登録しておりこの春相談所を変更してすぐくらいだった。「焦ってる」と言っていたのはこの為だったのかと思ったが遅かった。

私の障害者年金がおりるかどうかまではおそらく待ってはくれない。だからこれは真剣交際からの破断になるのだろう。
「これは最初から最後まで僕が悪い、ごめん」
そう言ってずっと倒れたように泣く彼に、私がごめんねと声をかけるのは不思議だったけど、私のために泣いてくれているのだと思い込みたかったから、そう言った。

私はインスタグラムで見つけた取引先の花屋さんがお花の配達を始めましたと投稿しているのを見つけた。
何故か花が欲しかった。
「くくるちゃんはプリンセスラインのドレスで真っ青なおっきなダリア頭につけたら似合いそう」
某ブライダルカウンターでチーフに言われたことがあった。
配達予定のお花はダリアだった。

取引先のバイトですなんて勿論名乗らず、ダリアは無事に届いた。
赤いダリア、白いダリア、黄色、ピンク、オレンジのダリア。

「ダリアが届いたの」「花買ったの」「花欲しいなって」「牡丹みたい」

「ダリアだよ」

私は川端康成になったのだ。さようなら。ダリアを見たら思い出してね。

#買ってよかったもの

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