見出し画像

父と私と音楽

音楽について考えるとき、いちばんに父の顔が浮かぶ。
私はもう20歳になるのに、父とうまく話せない。
ずっと、思春期の娘と父親のような関係。
そんな父と唯一繋がれるものが音楽だった。

私が小さい頃から、
車の中では清志郎やエレカシ、ハナレグミ、ストーンズ、スライダーズ、たくさんの音楽が流れていた。
たくさんのアーティストの良さを私に教えてくれた父に感謝している。

父と仲良くないけど、父が聴く音楽が好きだし、
ずっと、お父さんに認められたい。

そんな父との特に思い出深い3曲を紹介する。

・Waiting On a Friend/ザ・ローリング・ストーンズ
・夢の中/ボ・ガンボス
・東京/くるり


ザ・ローリング・ストーンズ『Waiting On a Friend』

23時くらいだった。
私は友達に言われて散歩へ行こうとしていた。
時間も時間だし、私が夜に外出すると父はとても怒るから、今日も怒られるだろうなと身構えていた。
けど、そんな父が、その日は静かに黙ってお酒を飲んでいた。
少ししてから、
「これ、ローリング・ストーンズの、Waiting On a Friendって曲」
父はぽつりと話した。
「今日、ドラムの人死んだんでしょ」
私は言う。

私と父の会話は、いつも少し噛み合わない。

「この曲、友を待つって意味なんだ。いいよな。」
父は言った。
私はこの日、ベロマークのTシャツを着ていた。

私も、ああ、いいなあと思った。

父の粋な態度が好きだ。
久しぶりに父の笑った顔を見た気がした。

友達との待ち合わせ場所につき、
私はイヤホンをした。


ボ・ガンボス『夢の中』

この曲は、私が小学生の頃よく車の中で流れていた曲である
私が中学校にあがる頃までは、よく家族でドライブに出かけていた。
私と妹の年齢があがるにつれ徐々に家族で出かける機会は減っていった。

最近は父の車に乗ることも少なくなったし、
乗ることがあっても、この曲が流れることはない。

そういう全てが、切ないなと思う。

先日、あるテレビの中でボ・ガンボスの魚ごっこのイントロが流れた。
私はドキドキして、久しぶりに父に話しかけた。

「さっきテレビで魚ごっこ流れたよ」
そのときに父がなんて返したか忘れてしまったけど、
その次の会話がすごく印象に残っている。

「私は夢の中が1番好きかな」

「あの曲をいいと思うのは、俺みたいな大人になってからで、おめえみてえなのがこんな弱い曲に流れてどうするんだ」
父は言った。びっくりした。

流されて 流れて
どこへ行くやら

繰り返す 繰り返す
いいことも やなことも

淋しいよって泣いてても
何も元へはもう戻らない

その通りなのだ。
もう、元には戻れない。

私はこの言葉にいつも泣く。
失恋したとき、
なにもできない自分がいやになったとき。

苦しいときにいつも寄り添ってくれるから好きだ。

ちょうど私が大学のことで悩んでいて、
毎日泣いて、
父の前で初めて号泣したのがこの時期だった。

父なりの励ましだったのかなと思う。

くるり『東京』

この曲はもともと、昔付き合ってた男の子の影響で好きな曲だ。
"好きな人が好きな曲"だから好きだったけど、
今ではちゃんと"私が好きな曲"になった。

あい変わらず季節に敏感にいたい

ここの歌詞がとても好き。
季節が変わるたびに、私はあの人を思い出す。

外を出た瞬間に鼻に入る匂い
空の色
手が冷たくなるあの感じ

全部が私の思い出を溢れさせる。
春、夏、秋、冬、
季節の変わり目は切なくて少し苦しい。
でもその切なさが心地いい。

父とのエピソードはここからだ。
私はくるりのCDを買った。
もちろん、東京が収録されているもの。

父の目に留まるよう、わざと居間のテーブルに置いていた。
父とくるりについて話せることを期待して。

「おめ、くるりも聴くのか」
やった。私は心の中でたくさん喜んだ。
「きくよ」
心の中とは真逆で、素っ気ない態度しか取れない。
「くるりはな、1曲しかねえよ」

「「東京」」

私と父の声が重なった。
思わずニヤけた。

父は、くるりの東京しか認めてないようだった。
私の好きな曲を、私がいいなあと思って聴いてきた曲を、父も同じようにいいなと感じていたことがとてもとても嬉しかった。

なにが?と思う人もいると思うし、
そんな騒ぐことじゃないと思う人もいると思うけれど、

私にとって、父と同じ曲に魅力を感じてしかもそれを父と一瞬でも分かち合えたことはとっても特別なことだった。

最後に

以上が、私の選ぶスキな3曲。

他にもたくさん語りたい曲はあるけど、
いつか私と父と音楽について文字にしたいと思っていたから、いい機会だった!

きっとこのまま私と父はぎこちない。
いつか父が死んだら、
私はとても後悔するだろうなと思う。

こんなに近くに、
好きなことを語り合える人がいるのに。
こんなに近くに、
私に素敵なものを伝えてくれる人がいるのに。

私はきっと損をしている。
もっとたくさんのものを、
父から受け取れるはずなのに。

いつかこの関係は変わるかなー。

この関係だから、いいんだよなー。

#スキな3曲を熱く語る

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?