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帰省

一月は帰省のシーズン。
この時期になると、頭の中でリフレインする曲がある。
中島みゆきさんの【帰省】という曲。
都会で肩肘張って毎日頑張っている人々が、故郷に帰って息抜きをする。
そして次に故郷に帰ってくるまでの間を、都会で頑張れる。というような歌である。

私は結婚するまで実家を出たことがなかったからか(一人暮らし体験として、実家の近所にアパートを借りて住んでみたことはあるけれど幽霊が出たので早々に実家に戻った)、なんやかんやと傍から見れば複雑な家庭環境で育ったからなのか、かなりの実家大好き人間である。

いったん家を出てしまうと、もう生活スタイルが違ってしまって、実家で同居するなんてできないという声をよく聞くが、私はむしろ、できることなら今でも実家に帰りたい。
離婚とか、子どもの学校とか、仕事とか、もちろんそういうことではなく、ただ単純に実家が好きなだけである。

何がそんなにいいのか。

私は帰省するとずっと喋り続けている。
悩んでいること、どうでもいいこと、思っていること、あったことなかったこと。(なかったことは言うな)
とにかく、自分でもびっくりするくらい吐きだしているのだ。
そして、家族はそれを聞き流してくれる。だいたい笑って。たまに泣いて。
ヘタをするとこの歳になっても怒られる。
なにはともあれ、いい塩梅に処理してくれるのだ。
このさじ加減はたぶん夫など、一生無理なんじゃないかと思う。

そんな絶妙な空気の中に数日、身を浸していると、本当に本当にまた明日から頑張ってやろうじゃないかと思えてくる。
今までの重いものが、すーっと消えていくような気がしてくる。

もちろん、日常はそんな簡単なものでもなく、やっぱり肩には重いものが伸し掛かってくるし、右往左往して、ひっちゃかめっちゃか気が付けば、般若の形相で日々が過ぎてゆくのだが、ああもう無理、やってられない、のタイミングで次の帰省シーズンがやってくるのだ。

今年のお正月は私、帰省できなかったのだけど大丈夫だろうか。
次に帰省するまで、頑張れるだろうか。

大丈夫。父から、母から、伯母からメールが届くから。
「元気で頑張りなさい。夏には帰って来なさい」

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言葉と写真の小冊子にエッセイを連載させていただいていた時のものです。
これは、2015年「プチパピエ/カフェオレ号」掲載
ちょこちょこっと修正あり。

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