3月3日をしまうまで

 1年ぶりの我が家は、なんだか拍子抜けするぐらいそのまんま。

 ピンクのもこもこスリッパも、私の部屋のベッドの端でクシャクシャになってる黒パーカーも、ウチには立派すぎるリビングのおひなさまも。(なんと五段もある)

 うっすらホコリは積もってたけど、隔離される前と全然変わってなくて、この1年が夢だったんじゃないかという気になってくる。でもママにそんなこと言ってパパのこと思い出させちゃったら可哀想だから、こうやって日記に書いてる。

 こういうのってエッセイって言うんだっけ? ポエム? ってかエッセイってなに? スマホもパソコンもあるけど、ぜんぶ解約されちゃってるからわかんないや。こまった。パパの部屋の本棚に辞典とかあったらいいのに、ほとんど漫画だったし。おいパパン!

 でも、私パパの子なんだなぁって思う。やばい泣けてきた。

 ウイルスとかほんと何なんだろ。っつか、なんで感染してない人が施設の中なわけ? 理不尽すぎる。しょうがないしょうがないってみんな言ってたけどさ、マリのお母さんぐらい出してあげればよかったのに。小瓶に入った娘とダンナさんの骨もらったってさ、ツラいだけに決まってるし。なんの参加賞だよって。

 そうか、マリいないんだ。このおひなさま一緒に飾ったんだった。しまうの遅れると婚期が遅れるんだっけ。1年も遅れちゃったよ。どうしよ。

 って思ったら、それ迷信だってさ。夕食の時ママが言ってたよ(ちなみにレトルトカレー)。もともとは悪いものを人の代りに引き受けてくれるものだったんだって。昔はひな祭り終わったら川に流してたって、セレブだよね。だからマリの婚期も大丈夫。よかった。
 でもだったら、何体かマリにあげとけばよかったね。10体もあるんだし。それも迷信だけどさ。一つぐらい、何かしてあげられてたらよかったのにね。バカだなホントに。

***

 おひなさまなんだけどさ、ママと相談してもう少しだけ飾っとくことにしたよ。箱に閉じ込めちゃうのやだなって思ったからさ。あと少し。1年先も忘れずにいられるぐらい目に焼き付くまで。私が大人になっちゃう日まで。


(了)


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