大声で話す男

透き通った青
空高く聳える入道雲
そこかしこで泣き喚く蝉
少し下に目を向ければ青々とした森が目に飛び込んでくる
茹だるような暑さの中、私は次の電車を待っていた

次の電車まであと15分
今にも溶けてしまいそうだ
構内アナウンスが回送列車の通過を知らせる

列車が通れば数秒だけでも涼しくなるだろうか
さっき買った水も既に飲み干し、それでもまだ喉の渇きは収まらない
無意味どころか悪化させると分かっていてゴクン、と生唾を飲みこんでみる
案の定粘ついた涎によって渇きが増しただけだった

「あー、ええ、そうですねぇ!」

男が大声で何やら話しながら、ホームへ下る階段を降りてくる
「そうですね!はい!ええ!」
商談なのだろうが、こんな暑い中よくあんな熱量で話せるものだ
「え!?今からですか!?今からでしたら、そうですねー、あ、いけます大丈夫です!はい!」

暑くて外したヘッドホンを付けるが、それでも音楽を突き抜けて声は耳に入ってくる
「はい!分かりました!!では来月には振り込んで頂けるという事で!はい!よろしくお願いします!!」

音量を上げて1人の世界に入り込む
気配がして目線だけ右にずらすと、スーツ姿の男が横に立っていた
この広いホームでわざわざ横に来るなよと思いつつも、それで列を移動するのも面倒だ
どうせあと10分の辛抱
男に分からないよう小さくため息をつく
あぁ、早く夏終わらないかな……

遠くの景色を眺めていると、トントン、と誰かに肩を叩かれた
驚いて叩かれた方を振り向くと、大声で電話していた男が私を見ていた

「……な、なんですか」
「いやぁ!ほんとごめんね!ちょっとだけ下がっといてくれたら大丈夫だから!」

何を言ってるのかよく分からないが、とにかく、暑苦しいまでの清々しい笑顔と気色の悪さだけは感じ取れた
私があからさまに嫌な顔をすると、一瞬だけ悲しい目をした後、すぐ笑顔を顔に貼り付け



回送列車に飛び込んだ

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