駆 動 音

死までの道のりと生まれてからの過去

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六畳半のベランダの有効活用

大学入学をきっかけに一人暮らしを始めた。 部屋を選んだ決め手は安さと近さだった。歩いて通学出来る場所に建ち、半世紀経たそのアパートは近所の家賃相場から二から三万円程安かった。内装は改修してあるし、風呂と手洗いは別であるし、ベランダが六畳半ある。 そこで七輪に火を起こし、様々焼いてビールを飲んだり、揺り椅子置いて午睡を楽しんだり。私の頭の中では多くの楽しみ方が想像された。 入学から二年経ったが、その大きなベランダには何も無かった。七輪も、揺り椅子も。日々忙しく過ぎる毎日のおか

    • 0.00001157Hz

      この街は1日間隔で昼と夜を繰り返す。元々、ネオンや電子看板で昼の明るさもなかったが、人口の光のおかげで、夜の来ない場所だった。今では1日おきにしか電気は通らない。1日中何も見えない夜の日と1日中偽物の光で眠ることの無い昼の日がある。 不自由なはずなのに誰もが此処から離れない。道を挟むビルは空を覆って、最後に夜空というものの明るさを確認できたのは200年は前の話らしい。常に増築を重ねたこの空の天辺を見た人間はこの街に住んでいない。私を覆うビルはまだ成長し続けているらしい。

      • パラソムニア

        半分くらいの記憶が無い。 確か、卒業してから久しぶりに友達と家で酒を飲みながら、大学で一緒に講義を受けていた時の話を面白おかしく喋っていたはずだ。 ゼミで同期だった奴の研究の進捗を話したり、教授の理不尽さを話したりしていたはずだ。 朝起きて、先に寝てしまった事を詫びるために、先日、共に酒を飲んだあの友達に連絡した。その友達は「昨日はお前の家にも行ってないし、アルバイト先で面倒くさい客に絡まれてた」と言う。 でも確かに私の朧気な記憶ではこいつと話していたし、自分の持ち物である

        • 頭痛と呪い

          遠くからサイレンの音が響く。 特に不自由なく今までを過していて、不満がないと言ったら嘘になるが、それなりに上手く生活出来ていたと思う。耳鳴りが段々と酷くなる。 人並みに恋はしたと思う。趣味は充実していると思う。六畳半で五年暮らしている。その暮らしの中で徐々に何かが削がれていった。興味や関心や何かが剥がれ落ちていった。眠りにつく時は毎回、世界を呪う。憎むべき対象はないし、失望する相手もいない。だけれども、世界を呪う。頭に残る不快な残響は無くなった。 私は今日も世界を呪う。小さな

        六畳半のベランダの有効活用

          蜘蛛と暮らす

          私の住処は築50年を超えるアパートだ。 近辺は再開発が進んでおり、昭和の時代から取り残された建物は隣の長屋か公園の横の住宅くらいだろう。 あまり綺麗とは言えないこの建物の一室で私は不思議と虫を見かけた事が無い。しかし、本当に時たま小さな縞模様のある蜘蛛を見かけることがある。 蜘蛛は家にいる害虫を駆除してくれる益虫と聞いたことがあり、私は彼のおかげで虫を見かけないのではないかと思った。 彼は獲物を探しているのだろう。彼は私の事を気にする事もせず天井や壁を動き回り、ふとした時

          蜘蛛と暮らす

          路地について

          住んでる九龍城は路地の迷路の中にある。 周りは10階は超えてるであろう大きなマンションやアパートが多い。その中で、その九龍城と隣の長屋だけが昭和の中頃から変わらない姿で佇んでいる。 やたらと細い路地や一方通行の道、私道が続いていて長らく住んでいても未だに全てを歩いたことは無い。 新宿ゴールデン街は路地が多い。どの店も路地の中でうちの店に入って欲しいと立て看板や派手な色をした扉を拵えているけれども、良く行く店以外に立ち寄ることは少ない。

          路地について