見出し画像

六畳半のベランダの有効活用

大学入学をきっかけに一人暮らしを始めた。
部屋を選んだ決め手は安さと近さだった。歩いて通学出来る場所に建ち、半世紀経たそのアパートは近所の家賃相場から二から三万円程安かった。内装は改修してあるし、風呂と手洗いは別であるし、ベランダが六畳半ある。
そこで七輪に火を起こし、様々焼いてビールを飲んだり、揺り椅子置いて午睡を楽しんだり。私の頭の中では多くの楽しみ方が想像された。

入学から二年経ったが、その大きなベランダには何も無かった。七輪も、揺り椅子も。日々忙しく過ぎる毎日のおかげで自分の住処を気にすることも無かった。
日曜の午前に洗濯を干し終わった。ふと日に差されたその大きなベランダがとても寂しく見えた。六畳半は何を置いてもいいし、何も置かなくていいが、無性に揺れる椅子を置き、そこで一服したいなと思った。家の近くにある家具店では揺り椅子の取り扱いがなかった。そこの店主に頼み、取り寄せてもらうことにした。来週の末には届くそうだ。

何も無かったベランダに運び込み、組み立てる。ただ広いだけの空間が、ひとつの椅子で自分には楽園のように見えた。
夏の焼けるように暑い外気を気にもせず、私はビールを持ちその椅子に腰掛けた。二年も過ごした部屋のベランダで初めて自分の住処だと感じられた。

そこから三年で様々な変化があった。周りの部屋は違う人間の住処になったし、隣の家には人が一人増えた。私の住む階は全て大きなベランダがあったため、使い方も色々である。家庭菜園をする、物置として多くの物品を置く、丸机と椅子で友人と過ごす。私は結局、揺れる椅子を置くのみであったが、そこは確かに未だに楽園である。
今度の週末、七輪を用意し、何かを焼こうと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?