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なおみちりめん

2020年7月のこと。
主人が、心の風邪をひきました。

いつかこうなるのでは
と思っていましたが、
いざ、現実となると、
やはりショックでした。

幸いにも軽い風邪で、
動悸や吐き気など、
体に現れた症状は、
投薬治療ですぐにおさまりました。
睡眠も、徐々にではありましたが、
改善されていきました。

そして、最後に残ったのが、
“心“でした。
心、いや、考え方。
先生はこう言いました。

考え方を変えていきましょう。

それで、私はつい、
あれこれ言い過ぎてしまいました。

もっとわがままに
生きていいんだよとか、
適当でいいんだよとか、
生き方を見直すチャンスだと
思えばいいよとかなんとか。

そしたら、主人は、
「ずっとこの考え方でやってきたから、
 急に変えろと言われても
 そう簡単には変えられない」
と言って、黙り込んでしまいました。


少し時間がかかりそうだな…
と思いました。


正直、私は、
主人とどう関わったらいいのか、
分からなくなっていました。
ある時は、
思ったことをはっきりと言い、
ある時は、
腫れ物にでも触れるように恐る恐る、
ある時は、
関わることを一切やめ…
夫がいないとほっとする自分に、
後ろめたさを感じることもありました。

考え方を変えよう
なんて偉そうなことを言って、
結局、私も自分を見失っていました。

自分にコミットしよう。
私は私のままでいよう。
何十回、何百回と
自分に言い聞かせました。

他人だったら、
もっと割り切って
うまくやれそうな気がするのに、
主人だとどうしてこんなに
難しいんだろう…。


「愛してるからだよ」


尊敬するメンターが言いました。

愛してるかどうかも
分からなくなることがあるのに…
私、そんないい人じゃありません。
心の中で思いました。
でも…
そんな風に言われて、
少しだけ救われました。

何だかんだ言っても、
やっぱり、
これから先も
この人と一緒に生きていくのかな…。 

そんなことを考えていた
ある日のこと。
東京に住む友人から
ラインがきました。

今年は、コロナで帰省できない
という連絡でした。
そして、
一枚の写真が送られてきました。

「なおにもらったハンカチ、
 いまだに使ってるよ」

ハンカチを見て、
私のことを
思い出してくれたらしいのです。


それは、17年前の秋。
結婚する前のこと。

主人と泊まった
ある宿のお土産品コーナーで、
私はこのハンカチに出会いました。

『なおみちりめん』


その名前に衝撃を受けました。

私と同じ名前!

この時、初めて、
板谷なおみ
という人がいることを知りました。
和柄の素敵なハンカチで、
色や柄は様々でしたが、
ピンクを基調にしたこのハンカチが
私は一番気に入り、
迷うことなく
友人のおみやげに選びました。

その宿で、
私はプロポーズされました。
もうお互い結婚すると
分かっていましたから、
今さらプロポーズ?!
少し驚きましたが、
やっぱりそれはそれで
嬉しいものでした。

『なおみちりめん』に出会い、
プロポーズされた4ヶ月後に、
私たちは結婚しました。

自分の分を
すっかり買い忘れてしまい、
それ以来、
なおみちりめんを目にすることは
ありませんでした。

17年ぶりに写真で再会し、
あの日の感動が甦りました。

あの日、
一目惚れをして買ったハンカチは、
17年たった今でも、
やっぱり、
惚れ惚れするほど素敵でした。


あの頃、私は、
主人といるのが楽しくて、
ずっと、この人と一緒にいたい
と思っていました。

今はもう、
あの頃のような
高ぶる気持ちはないけれど…

やっぱり、この人と
ずっと一緒に生きていきたい

そう思いました。

ファイト


なおみちりめんが、
私たちの赤い糸を
固く結び直してくれたような気がして、
嬉しくて嬉しくて涙が溢れました。


私はもう一度自分に言い聞かせました。

私は私のままでいよう。


主人の機嫌は、主人に任せて、
私は、ご機嫌でいよう。

そうすれば、
そのうち、きっと…、
主人の機嫌も良くなるだろう。

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