見出し画像

人生が変わる時

今から2年半程前のこと。

私は、
空色のラパンに
乗っていた。

空色の車体、
アンティークな内装、
クリーム色のシート、
全体的に四角い感じ、
全てが気に入っていた。

生まれて初めて買った
新車だった。

独身時代から乗り続け
既に16年を過ぎていた。

見た目はまだまだ綺麗だが、
あちこち、ガタが来ていて、
車検の度に、
部品の交換や修理に
お金がかかるようになっていた。

そろそろ次の車のことを
考えなければ…
気になってはいたものの、
次の車のことは
いつも後回しになっていた。
その為の備えも
全くない状態だった。  

1、2ヶ月前から、
グゥガッ、グゥガッという
妙な音がして、
少しだけ気になっていた。

その音は、
いつと言うことなく
突然鳴った。
それは、走行中だったり、
カーブを曲がる時だったり、
色々だった。

何年か前に、
全く別の音だったが、
やはり気になる音がして
怖くなって、
車屋さんに見てもらったことがあった。

「全く問題無い音ですよ」
そう言われ、
ほっとしたのと、
たいしたことがないのに
見てもらったことを、
少し恥ずかしく思った。

古くなると、
色々なことが起こるのだなと
その時思った。

今回の音は、
前の時と全く違う音だったが、
前回のこともあって、
見てもらう程のことでもないかな
きっと、古くなると
今までしなかったような音が
してくるものなのだろう
そう思って、
そのまま乗り続けていた。

そんなある日のこと。
主人を飲み会に
送って行くことになった。
歩いて行くからいいよ
と言われたが、
何だかんだで、
送って行くことになった。

その日も
例のごとく
あの音がなった。

音を聞いた主人は、
驚いたように叫んだ。

「なに?!この音!」

1、2ヶ月前から
鳴り始めたことを話すと

「こんな音、ありえない!
 すぐ見てもらった方がいいよ」

と言われた。

「えっ、そうなの?!
 そんなに、まずい?!」

古いからと思っていたけれど、
そうじゃないんだ。
それなら
近いうちに見てもらおう。

それからまた何日か過ぎ…
買い物に出掛けた帰り道のこと、
急に、主人の言葉を思い出した。
予約も何もしていなかったが、

今、行ってみよう

急に思い立ち、
車屋さんに立ち寄った。

事情を説明すると
案の定、
その日は予約でいっぱいで
無理とのことだった。
翌日は会社が休みのため、
翌々日の朝一番に
見てもらえることになった。

車屋さんからの帰り道も
相変わらずあの音はしていたが、
予約がとれたことで、
私は、すっかり安心していた。


そして、
予約当日の朝を迎えた。

その日は、
朝からとてもいい天気で
何だかウキウキして
とても気分が良かった。

家から車屋さんまでは、
そう遠くない。
1、5キロぐらいだろうか。

家を出て間もなく、
以前働いていた
幼稚園のバスとすれ違った。

私は、嬉しくて、
運転手さんや先生、子どもたちに

「おはよう」

と大きく手を振った。

それにしてもいい朝だ。
私は、すっかりご機嫌だった。

踏み切りを渡り、左折すると、
左手に車屋さんが見えてきた。

1、5キロはあっという間だ。

車屋さんの敷地に入り
どこに駐車しようかな
と思っていると、
ガタンと音がして、
車が揺れたかと思ったら
エンジンがかかったまま、
その場で車が動かなくなった。

なにごと?

驚いて、ドアを開けてみると

前タイヤがあり得ない角度に
なっていた。

タイヤが外れた?!
いや、もっと大変なことが
起きている。
ただならぬ事態に
私は、エンジンを切るのも忘れ、
事務所へ走って行った。

事務所では、
朝礼が行われていた。
社員全員で
社訓のようなものを
唱えていた。

「す、すみません。
 タ、タイヤが
 外れてしまったんですけど…」

「あ~、タイヤね、
 最近タイヤ交換しましたか?」

車屋さんは、落ち着いた感じで
訊いてきた。

「いや、そういう外れたとは
 違う感じです…」

一人の社員さんが、
私の車を見に走って行った。

戻って来て、すぐに言った。

「即、入院ですね」

私の車の前輪は、
車軸ごと外れて、
走行不能の状態になっていた。

動かなくなった私の車は
敷地のど真ん中を
占領していた。

もはや自力で動けなくなった
愛車ラパンは、
つり上げられ、
運ばれて行った。

ガーン

見てもらうどころか、
完全に動かなくなってしまった。

なんてことだ…。

車屋さんいわく、
もちろん、直すことは出来るが、
後ろの車軸もかなり劣化していて
同じようなことが
また、起こり兼ねない
前後どちらも修理することを
考えたら、
買い換えも視野に入れた方が…
とのことだった。

まさかの展開だった。
次の車か…。
どうしよう…。

ハァ。
ため息が出た。
が、次の瞬間思った。

ん?!
よく考えてみれば…

車屋さんの敷地で壊れるなんて
ラッキーだったんじゃない?!

だって…
もし、踏み切りで動かなくなったら…

走行中に外れて
幼稚園バスを巻きこむ
大事故を起こしていたら…

歩行者に突っ込んでいたら…

ここに来るまでの
いや、今日までの
様々な出来事を思い返しているうちに
私の足は、ガクガク震え出した。

主人を送っていくことになったこと、
主人の反応に驚き、
車屋さんに行くことを決意したこと、
買い物の帰りに
急に思い立って車屋さん行ったこと、

あのことがなかったら…
あのタイミングでなかったら…
車屋さんに到着した途端に
車軸が外れるという
奇跡は起こらなかった…。

えっ!
私って、ついてる?!

私は、自分の運の良さに震えた。
と同時に、

神様って本当にいるんだ!

と思い、
自分を守ってくれた神様に
心から感謝した。



次の車の為の備えが、
全くなかったのだが、
リースなら
月々手頃な価格で
乗れることを知り、
ずっと頭を悩ませていた、
お金の問題もあっさり解決した。


後日、ある人にこの話をした時、
その人は楽しそうに言った。

「これから
人生変わっていきますね」

その人が言うには
人生が変わる時には
物が壊れたり、
事故に遭ったり、
一見マイナスに思えるようなことが
起こるのだとか。
精算というか、
手放しというか…。

それを聞いて、
何だかワクワクした。

そして、改めて思った。

私って、
何てついてるんだろう!

その人が言っていた通り、
その後、間もなく
コーディネーターの仕事が
舞い込んで来て、
私は、
新たな世界に足を踏み入れて
いくことになった。

その後も、
様々な出会いや出来事があって…
現在に至る。

どうやら、
人生が変わる時には、
自分でも想像しなかったようなことが
起こる…
らしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?