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自分の色で、大切な自分を包んで。

「あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶の中に寝ている乳飲み子を見つけるであろう。これがあなたがたへのしるしである。」

新約聖書 ルカによる福音書2章12節 (新共同訳)

こんにちは、くどちん、こと工藤尚子です。キリスト教学校で聖書科教員をしている、牧師です。

一昨年の夏、当時の高3生に「これめっちゃ良かったです…!」と言って紹介された本があります。伊吹有喜『彼方の友へ』という本です。

すぐに図書館で借りて読んだらこれがほんとにめちゃくちゃ良くて、後日その生徒さんと再会した時「めっちゃ良かった……(´;ω;`)!!!」と語り合ったのでした。

先日、商売柄学生さん向けのおすすめ本のリストを見ていたら、同じ作家さんの『雲を紡ぐ』という本が入っていました。「これは『当たり』の予感……!」と思って、すぐ図書館で借り、つい先日読み終わりました。

……これまためちゃくちゃ良かった(´;ω;`)!!!

主人公は高校2年生。学校に行けなくなってしまった彼女は、あるきっかけで、ほとんど会ったことのない、岩手に住む父方の祖父の所へ向かいます。この祖父は、羊毛を手仕事で染め、紡ぎ、織り上げて作る「ホームスパン」と呼ばれる布の工房を営む人。この祖父の下でホームスパン作りを通して、主人公は自分の「これから」についてじっくり考えていくことになります。

物語の中で、主人公が「自分を表す色は?」と尋ねられる場面があります。「自分で自分のショールを織る」ということになったが、それを何色にするべきか。主人公は答えることができません。自分の色を探し、自分を包む布を織る。この道のりが、物語のテーマとなっていきます。

「まずは『自分の色』をひとつ選んでみろ。美緒が好きな色、美緒を表す色。託す願いは何だ?」「考えたこともない……私の色?」

皆さんならこの問いになんと答えますか? 自分を包む、自分を表す色は何色? そしてその理由は?

確かに自分自身のことってよく分かっているようでいて、実は分からないことも多いですね。「私は爽やかな空色」とか「燃える情熱の赤!」とかすぐ答えられる人もいるかもしれません。でも、「明るい緑色……と見せているけど、本当は静かな濃紺」なんて人もいるかもしれません。

物語の主人公は、学校の友人や家族との関係の中で深く傷付いて、岩手に向かいました。そしてそこで自分がまとうべき布を織り上げていきます。

「布でくるむ」という行為には、対象を大切に思う気持ちや、それを壊したり傷付けたりしないよう、温かく守ろうとする優しさが宿っていると思います。「私を包む布を織る」ということは、人間関係の中で傷付いた主人公が、自分を愛し、自分を肯定し、自分の力で歩み出して行こうとする大切なステップとなるということでしょう。その布を、何色に染めて、織り上げるか。私は私を、どんな思いや願いを込めて、大切に守っていくのか。

冒頭に挙げたのは、救い主イエスが誕生した場面、クリスマスの物語です。思い切り季節外れでごめんなさい(笑)

生まれたての赤ん坊という、何もできない力の無い弱い姿でこの世に来られた救い主。この赤ん坊イエスを包んだ布は、何色だったのでしょう。

「布でくるむ対象は大切なもの」と述べましたが、誰かへの贈り物も大切なものとして、袱紗や風呂敷といった布で包みますね。(もっとも、最近は紙で包む贈り物の方が一般的かもしれませんが。)

この場面で布にくるまれているのは赤ん坊イエスですが、これは「私たちへの贈り物」として来られた救い主を指し示していると受け取れます。そして誕生とは対照に当たる死の場面、十字架から下ろされたイエスの遺骸もまた、布でくるまれることになります。

イエスの誕生からその死、そして復活にいたるまで、「救い主」そのものが私たちへの贈り物であるということが、聖書の力強いメッセージとして響いてきます。ここで布にくるまれているのはイエス自身ではありますが、それは神から示された私たちへの愛そのものなのですね。

今日は敗戦から76年経った記念の日。自分自身を含めた「ひと」を慈しむことよりも、大義や国家などといった「別の何ものか」を大切にせよと押し付けられるところに、争いや暴力が起こるのだと思います。私の暮らす身近な場所では分かりやすい形の戦争は今のところ起こっていません。でも「人が人として大切にされない」という出来事は日々次々と起こっていて、ニュースなどに対しても耳や目を塞いでしまいたくなるほどです。

ひとりひとりが、自分の色で自分を包み、それがほんとうに大切にされるように。どんな色の布をまとって生きていても誰からも咎められず、それを暴力的に剥ぎ取られたりすることのないように。そういう願いの先にこそ「平和」があると信じながら、日々を織り重ねていきたいです。

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