すっきりと、かつ、嘘のない言葉で書きたい。
「あなたがたは、『然り、然り』『否、否』と言いなさい。それ以上のことは、悪い者から出るのである。」
新約聖書 マタイによる福音書 5章37節 (新共同訳)
こんにちは、くどちんです。キリスト教学校で聖書科の教員をしている、牧師です。
話題になっていた本を読みました。
例示が豊富で分かりやすかったし、自分でも一部実践していたり、生徒さんに伝えたりしていたことが「答え合わせ」できて良かったです。
誤解されたくない、不快にさせたくない、断言を避けたくなる……。文章を書いていると、そうしてつい回りくどくなります。自虐クドウが耳の横で「ほんとかよー」とか「そんなこと言って自分はどうなのー?」とか、ちくちく突っ込んでくるので、余計に。
その不安を埋めようと思うと、「AはAだと思うんだけど、別にそれはBやCを否定しているわけではなく、AはDでもあり得ると思うのだが、やはり私はどちらかというとAだと思ってはいるので、やっぱりそこはBを選べないという気がしたりする」なんて、「結局どないやねーーーん!!」な文章になりがちです。
きちんと伝えたい、相手を傷付けたくない。動機としては悪くないのですが、読み手の側からすると結局論旨が分からなくて、不親切だったりするんですよね。反省。
字数制限がある時は、特にこの回りくどさとの闘いになります。
私はとりあえず言いたいことをばばーっと書き出していって、そこからざくざく削っていきます。1000字程度を目指す時に2000字を超えても、一旦は気にせず書く。その後「半分にしろってことか!」などと目標値との差を意識しながら、削れる所を探しまくります。
削るべき字数が多い時には、「分かりやすくするつもりで入れた例話だけど、焦点をぼやかしてるなー」などと気付いて、段落ごと思い切ったりします。
削るべき字数が数十字程度になったら、一文をすっきりさせることに傾注します。くどい接続詞とか、無くても分かる主語とか、読点で繋いでたのをできるだけスリムな一文にしてみたりとか。
そうこうしていると、「どうしても入れたかった一言はこれだったんだな」と自分の本音が見えてきたり、「置き換えもできるけど、でもこっちの言葉のニュアンスがやっぱり好みだ」と譲れないものに気付いたり、「それでもこの文章の目的からは少し外れるから、ここは削るか……」みたいな覚悟が生まれたり。推敲の作業で、自分自身と向き合わされます。
くどかろうが簡潔だろうが、とにかく嘘は書きたくない、という気持ちは強いです。
職業柄、生徒さん宛の文章で「勉強頑張れ」とか言わなきゃならない時があります。今だってそうですよね。「休校続きで自宅学習になるけど、とりあえず頑張れ」みたいなことを言うべきなのかな、とも思います。でも「大人だってストレスフルなのに、年若い皆さんにそんな酷な、追い詰めるようなことを言っていいんだろうか」などと思うと、おいそれと「頑張れ」とは書けない。それは私の本心ではない。自分が思っていないことを「こう言うべき場面だから」という理由でさらっと書ける「オトナの割り切り」が下手なんでしょうね、たぶん……。
だから、「大変な時だけど、また学校で一緒に学べる日に向けて、それぞれ備えましょうね」みたいな書き方になります。「勉強頑張れ」と比べるとずいぶんくどいけど。「備え」という言葉に何を見出すかは読み手に委ねる感じです。予習復習をすべきだと思う人、生活リズムを整えようという人、心の健康優先でストレス解消に励む人、いろいろいて良いんじゃないかな、と思いつつ。
「努力は大事」とか「夢を持て」とかも先生らしい言葉だろうけど、私はあんまり言えません。だって自分がそこまで努力できてるかって言われたら自信無いし、努力したくてもできない状況の人もいるだろうし……。そもそも夢って何だろう、目標とどう違うのか、夢を持つとどんないいことがあるんだろう、夢破れて立ち直れなかったらそっちの方が辛いんじゃないか、とか思っちゃうし……。「これはこの人の努力の成果です」とか「夢を持つことでこんな結果に繋がった人もいます」みたいな、「事例紹介」ならできます。それなら自虐クドウも何もツッコまない。
そんなことを思いめぐらしてみると、「言葉ダイエット」とは単純に「言い切ればいい」「短くてインパクトがあればいい」という話ではなくて、「伝えたいことを明確にするプロセス」、ということになるのでしょうね。
「然り、然り」「否、否」とだけ言いなさい、というイエスの言葉は、「本当に言いたかったことから目を逸らさないでね」という勧めなのかもしれません。「いや、だってさ……」とか「私はそうは思ってないんだけど、みんなが……」とか、言い訳を重ねて自分の本心をごまかすことの無いように。
「神さまの前で嘘は言えない」という良い意味での「縛り」が、真実な言葉を紡ぐ原動力になるような気がします。
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