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向こうみずな冒険家と明日丸焼きになることを知らず眠る七面鳥の話

リスクを恐れず突き進め!

一か八かにかけろ!

それが起業家だ。成功者だ。

と勘違いをしている人がたくさんいます(あえての偏見)。

今回は、それが勘違いであることと、その真逆が正しいと思うのも勘違いだという話をします。


それでは参りましょう!


ジャンクな自己啓発本

一冊の本を通して、“大きな夢をみろ”、“リスクを恐れず果敢に飛び込め!”くらいのメッセージしかない本が最近売れています(感覚です)。

そういう本を読んで、なんのプランもなく「何かでかいこと」を「がむしゃらな努力」で達成しようとする人も度々見かけます。

大きな夢を見るのも、がむしゃらな努力をするのも、素晴らしいことだと思います。まったく否定しません。

しかし、それは戦略ではないともはっきり言えます。困難なことを現実的にできることの積み重ね・組み合わせで可能とするのが戦略です。

良い戦略は、困難な課題を乗り越える現実的な方法を示す。戦略目標がそもそもの課題と同じくらい歯の立たないものだったら、戦略を立てる意味はない。『良い戦略、悪い戦略』

そういう本は、元気は出るけど栄養はないエナジードリンクみたいなもんだと思っていて、あるいはポルノ動画みたいなものだと思っていて、娯楽としてたまにたしなむものだと思います。

ところが、聖典みたいに扱っている人もいてちょっと心配になります。過剰摂取すると毒になりますよ(たぶん)。


リスクテイカーは成功しない

人に死ぬ気でやれと言っている人だって、当人はリスクをうまくコントロールしていることがほとんどです。

そもそも、図抜けて成功した起業家たちは頭のおかしいリスクテイカーではありません。

成功を収める人は、ある部分で大きなリスクを冒しつつ、別の部分ではことさらに慎重になることでバランスを取っているのです。冒険的精神と神経質を内在させているというわけです。

ヘンリー・フォードはトーマス・エジソンの下でチーフ・エンジニアを務め安定した収入を得るかたわら、自動車帝国を築き始めています。成功をほとんど確信するに至ってからようやく自動車一本にしぼりました。

ビル・ゲイツは大学二年生のときに新しいソフトウェアを販売していましたが、大学にはその後丸々一年通っています。しかも、選んだのは退学ではなく休学です。資金も親持ち・・・

アインシュタインは特許庁という非常に安定した職に就きながら、空き時間でいくつかの重要な論文を書き上げました。

カフカは保健局で働きながら執筆していましたし、夏目漱石は講師のかたわら『吾輩は猫である』を発表しています。

死ぬ気でやることはそれ一本でやり始めるものではないし、成功をほぼ確信するまではぶっとい命綱を手放すことはないのです。


バーベル戦略

金融の用語らしいですが、バーベル戦略というのがあります。

どんなものかといえば、ハイリスク・ハイリターンの資産とローリスク・ローリターンの資産を組み合わせた投資戦略のことです。

まさしく、さっき紹介した成功者たちの取った戦略ですね。

僕はこれをナシーム・ニコラス・タレブの本で知りました。

彼は、ほとんどのリスク測定には欠陥があると認めるなら、取るべき戦略は可能な限り超保守的かつ超積極的になることであり、ポートフォリオの85%から90%を安全性の高い資産に投資し、残りの10%から15%をリスクの高い投機的資産に投資すると紹介しています。

仕事に置き換えるなら、安定している仕事と当たれば大儲けできる可能性があることを同時にやるということです。

たとえば、noteを継続して書きながら別で安定した収入を得ているならバーベル戦略をとっていると言えるでしょう。


永遠に安定した仕事はない

とはいえ、安定した仕事しかとらないのも危険です。実はかなりリスクテイカーな行動なのです。

賢い、”ふつうの”七面鳥の話を紹介しましょう。

僕は七面鳥。毎日9時に餌を与えられている。天候や僕の気分に関わらず、いつも9時きっかりに餌はもらえる。論理的、確率論的、一般的に考えれば、明日も明後日も餌は9時になると餌がもらえるという法則が成り立つ。妥当な推論だろう?

あぁ、そういえばもうすぐクリスマスだね。僕の主人はすっごく楽しみにしているようだけど…

かわいそうなこの七面鳥は、もちろんクリスマスに首を切られて丸焼きにされるわけです。

いかがでしょう?

過去をもとに未来を推測しても、青天の霹靂は起こるものです。

会社が明日潰れるなんて万に一つと思っていたとしても、あなたが50年働くなら、明日は2万回ほどやってきますから実はかなりの確率です。

そんなわけで、バーベル戦略、当たれば天井知らずの儲けが出ることに時間やエネルギーを少しずつでも投資しておくのが本当にリスクを回避する行動なのです。


人を巻き込んだリスク回避

エナジードリンク的な自己啓発本を書いている人は他人を道連れにバーベル戦略をとっています。

彼らは、リスクを取れと人々を啓蒙し、無謀でバーベル戦略なんて思いもよらない無数のリスクテイカーたちに大失敗を犯してもらおうとしているのです。自分の代わりに。

彼らの失敗は次に挑戦する人にたくさんのヒントを与えてくれます。おそらく成功者よりも多く。

バカみたいなリスクに飛び込む無数の夢想家たちがいなければ誰も知らないうまみは見つからないからです。

より危険なリスクを取れる夢想家を養成し、彼らの失敗から学んでガシッと自分が利益を掴みに行く、これが他人を巻き込んだリスク回避の方法なんですね。

ついでに、養成すること自体で儲かりますし、向こう見ずにリスクを取れと連呼する方が売れるんだから笑いが止まりません。

このように、関わるつもりもない無数の他人になんの責任も負うことなく、うまくリスクを取ってもらうこともできるのです。僕はそういうやり方を全く気に入りませんが。


僕のリスク回避

最後に、僕がこの記事のリスクを回避します(笑)

ここまで、そんなに大量の文献に当たったわけでもなく持論を述べてきました。

主に参考にした書籍はアダム・グラント『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』、ナシーム・ニコラス・タレブの『半脆弱性』です。

あくまでこの記事だってジャンクフードであることを認識した上で、面白がってもらえたらいいかなと思います。

完璧なリスク回避をしたところで、お別れです。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。


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