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同志社大学今出川キャンパス通訳ツアー

通訳授業の新しい試み

2024年1月20日。私の通訳の授業で初めての試みをしました。その名も「同志社大学今出川キャンパス通訳ツアー」です。講師である私が英語ガイドになって、学生が通訳ガイドになる設定でツアーを二言語で開催します。

これまでにも通訳の授業では、私の出身地である神戸を舞台に通訳ツアーを開催してきました。そこでは京都の学生だとあまり行かない神戸について、そして阪神淡路大震災について、通訳を通して知ってもらおうという狙いがありました。

今回も同様、通訳活動を通じて、同志社大学の歴史、そして新島襄の生涯を知ってもらい、より身近に感じてもらうことが目的でした。

ですがここで問題がありました。まず講師である私が外部の人間で、同志社大学のこと、ましてや今出川キャンパスや同志社の歴史、そして新島襄の生涯について全く知らなかったのです。

そこで今出川キャンパス通訳ツアーをすると決めた時から、意識的に勉強してきました。そのまとめがこちらのYouTube動画です。

ここでは同志社科目で配布されている書籍を3冊ほど図書館で借り、早速読んで内容をまとめました。特に新島襄の生涯に焦点を当てています。

また実際に同志社大学で教えられている小原克博先生の動画も、家事をしながら耳学問で勉強させていただきました。

YouTubeで動画が上がっていたら学習は全て完結するでしょうと思われるかもしれません。しかし面白いことに、小原先生の動画を視聴するほど、小原先生にお目にかかりたい!という気持ちが強くなっていくのです。まだ食卓講師の身分ですが、いつか小原先生に感謝の気持ちをお伝えしたいなと思います。

さあ実際の通訳ツアーの始まりです!

今出川キャンパス通訳ツアー開始!

まずは初めて降り立つ今出川キャンパスへ。開始時間に遅れないように、かつ下見の時間も取れるように早めに到着しました。時計を見ると8:30でした。京都市営地下鉄今出川駅の改札を出ると、すぐにキャンパスの入り口です。これはYouTube動画でも見ていたのですが、本当にすぐそばでした!

改札からすぐ入り口に!

今出川キャンパスには、なんと国指定重要文化財が5件も登録されています。それらを概説するだけでも私の手に余るので、どこでガイドを切り上げるかも考えなければなりませんでした。

大学スポーツ編集局の記事も!

10:00になりました。通訳ツアー初回の始まりです。学生が十数名いるので、通訳が当たる回数を増やすために3つの小グループに分けて行いました。それはつまり、私が同じツアーを3回、朝昼夕(10:00-1200, 13:00-15:00, 16:00-18:00)に行うことを意味しています。

初回の通訳ツアーの様子は、教育分野で仲良くさせていただいている神戸市の中学校教員、岩田慶子先生に撮影いただけることになりました!初回は「バーチャル観光第137弾with同志社大学通訳ツアー」というタイトルで、Facebook Liveでライブ配信されました。視聴者の多くが学校関係者で、学生の通訳ぶりをコメントで盛り上げてくださいました。一部音声が小さくなっていますが、通訳ツアーの様子は十分伝わっているのではないかと思います。雨の中苦労しながらメモをとり、通訳している学生の姿を見ていただければ幸いです。

【バーチャル観光第137弾with同志社大学通訳ツアー】 通訳者であり同志社大学講師の大西 亮平さんによる華麗な英語、 そして学生さんによる即時日本語通訳を、ぜひお楽しみください。 今出川キャンパスの歴史は、日本の近代化の歩みと大いに関わりがあるということを学びました。

Posted by 岩田 慶子 on Friday, January 19, 2024

通訳ツアーで伝えたかったこと

さて、ここからは今出川キャンパス通訳ツアーを通じて私が伝えたかったことを書いていきたいと思います。

同志社大学の歴史は、日本の近現代史そのものである。

新島襄の生涯と同志社大学の歩みを概説する通訳ツアーでした。詳細は上記の動画をご視聴いただきたいのですが、問うべきはなぜ通訳の授業で自分の大学の歴史を扱うのかということでしょう。それは実際に通訳ツアーを体験した学生の言葉に表れています。

ある学生のコメントを要約すると、「高校が同志社系列だったのである程度は知っていたが、今回のツアーを通じて日頃通り過ぎていた建物のことをより意識することができました。昔神戸で通訳ツアーした時のことは今でも覚えています」ということでした。

つまり、通訳活動というのはある対象により意識と注意を向けていく活動とも言えます。ここは強調してもしすぎることはありませんし、通訳教育で見過ごされているのではないでしょうか。通訳活動で扱う題材が学生に忘れない体験を提供できるならば、その題材選定にこそ戦略的にならなければいけないと思います。

通訳は学びへの招待状

大袈裟な表現かもしれません。しかし私は本気でこう思っています。私自身、会議通訳で得た知識はなかなか忘れることがなく、「今日はどんな学びがあるのだろう」と楽しみにしながら現場に向かいます。そんな学びへの招待状が通訳なのだとしたら、それを授業に応用しない手はないと考えます。

では今回の今出川キャンパス通訳ツアーでどんな学びの招待状を送ったのか。それは日本史への招待状です。歴史が苦手という学生は多く、かくいう私も世界史に興味を持ち始めたのはほんの数年前でした。しかしそこで歴史の論理がわかれば面白いことを発見しました。その時の知的好奇心が高じて、実は今でも大学入学共通テストの世界史Aを解いています。

学びとは、本来楽しいはずです。ですがその学びへの切符をどうやって学生に渡すかが、とても重要です。情報に溢れている現代だからこそ、「歴史って楽しいじゃん」と思ってもらえるような体験が必要なのです。溢れかえっているからこそ、興味のアンテナを立てるべき学問として選んでもらう必要があります。それが通訳ツアーの仕掛けです。

とはいえ、通訳ツアーで扱った知識レベルは、実は中学レベルです(私の知識レベルの限界があることも、もちろんあります)。鎖国、岩倉使節団、森有礼、クラーク博士の「少年よ大志を抱け」、内村鑑三、そして渋沢栄一など、新島襄の生涯には日本の近現代史を形作る重要人物が目白押しです。通訳するはずの学生も「え、そうなの?」あ、この人が同志社と関係あったのか・・・!」と漏らすこともありました。それが学びです。それが通訳ツアーの持つ仕掛けとパワーだと信じています。

もちろん、その学びを提供するために私も勉強します。これは当日のガイドのカンペとスライドです。スライドの多くは、同志社大学の「新島遺品庫資料の公開」というサイトから引用しました。カンペはもはや、何を書いてあるか分かりませんね。知識を入れるだけではなくて、どこでどの話をすれば同志社大学と新島襄の生涯を伝えられるのか、キャンパスの配置と睨めっこしながら考えます。

もはや読めないガイド用カンペ
ガイドで使った画像スライド

無事通訳ツアーを終えた学生と、最後はコーヒーを飲みながら振り返りました。特にFacebook Liveが入った緊張するツアーだったでしょうが、よく頑張ってくれました。

通訳ツアー後に学生と岩田先生と

今日の通訳ツアーがきっかけになって、歴史に興味を持ってくれる学生が一人でもいれば、私の目標は達成したと言えます。通訳は学びへの招待状です。最終回の振り返りで学生が言ってくれた「大学からもらった同志社本が家にしまってあるままだった。読んでみようかなと思った」というコメントを信じようと思いました。


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