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この気持ちに、名前はまだ無い。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 

小学生編 -6

12歳、また夏がやってきた。

望まずとも課せられる呪いみたいな夏休みの宿題。

今となっては『Back to the Future』のデロリアンの設計図を提出できる訳もなく、ひとり粛々と日々タフにやり過ごしていくしかなかった。


少し時を戻そう。

その年の4月。
新学期、僕の学校では2年ごとのクラス替えがあり、小さな町ではあったがまだ言葉を交わしたことないヤツらとも、最後のクラスメイトとして一緒になる。

その頃には、すっかり立派な音楽&SFオタクと化していた僕であったが、このタイミングで新しい仲間は作っておいた方が良いという本能的な判断により、初めての登校日、席が後ろになった男子に思い切って声をかけてみた。

「や、やぁ。おれ山の上に住んでるマタヒコって言うんだけど、その缶ペンめちゃクールじゃん。ちょっと見せてくれない?」

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(ペンケース・鉛筆・消しゴム・ノートに至るまで当時イケてた文房具ブランドで統一していた)


「はぁ? お前誰だよ、ヤダよ。」

「え…?」 

「(無視)」

(え、なんだこいつ、、やなヤツやなヤツ…!)

このイケ好かない、前髪を伸ばしジーンズを履いた(当時みんな半ズボンだったのに)その少年の名は、ヒサミツといった。

まぁサイアクな初対面である。

彼が、僕らの通う小学校が建っている地域の名だたる地主一族の末裔であり、後に僕が初めて組むことになるバンドメンバーの一人となるのは、もう数年先のことである。

(言わば僕の一家は、千と千尋さながらに新興で引っ越してきたよそ者と言える。)

さっそくの友達作りにも失敗して迎えた夏休み、僕は愛チャリであるKUWAHARAのBMXを駆って、一日がかりで小田原城を見に行ったり、三浦半島一周に出たり、何ともムダなエネルギー消費ばかりに勤しんだ。
(帰宅後のおしりの痛さは筆舌に尽くしがたい。)

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当時、このBMXが相当イケていて『E.T.』や『GOONIES』の主人公達に憧れて(今でいう『STRANGER THINGS』だね)街から街へと乗り回していたが、当然、エイリアンに遭遇する事もなければ、宝の地図を発見することも無かった。


閑話休題。

そんな無駄に長い夏休みが終わり、銀杏の木々が少しずつ色付き始めた頃、相変わらずBillboardとラジオにかじりついてた僕は、FMで予備知識も無く、まさに青天の霹靂とも言える一曲を耳にすることになる。

(え、なんだこの曲、洋楽…じゃないよな、日本語だ、、)

そう、もはや説明するまでも無いが、ご多分に漏れず全くの不可避であった。

完全に洋楽&シンセ脳だった僕のアタマに、唐突にギターと日本語サムライが切り込んできやがった。

「この音、ギターで出るんだ…シンセみたい、ギターってすげぇ…!!」

「邦楽なんて別に興味ないし〜」なんてうそぶいていた所詮小5病は、更にtvkで彼らのライブ映像を観ることによって、価値観がひっくり返る。

「バンド! これがバンドか! バンドじゃん!!」

僕は決意するのである。

この気持ちに、名前はまだ無い。

「小学生編」
〜完〜


ー「中学生編」につづくー

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