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チムドンドン、邂逅。

沖縄とわたし ②

新宿、そして沖縄。


"新宿LOFT"をご存じだろうか。
あの黄色い看板のショップではなく、新宿の地下にあるライブハウスである。
その界隈の方々からしてみれば言わずもがなだけど。

現在、そのLOFTが所在している歌舞伎町に移転するまでは新宿の西口にあり、その当時ですら、BOØWYやTHE BLUE HEARTSといった往年のバンドが生まれ育ったハコとして、伝説的な憧れの聖地だった。

僕が高校生になって、THE MAD CAPSULE MARKETSのデビューライブを観るためついに初LOFTへ行くことになって、それはもうめちゃくちゃ緊張しながら入場待ちしてた時に見上げたあの看板は、もうそれだけで感慨深く胸がいっぱいになる程だった。

ただ、並んでるお客さんはみんな怖いわ受付のお兄さんは眼光鋭いしで、肝心のライブの記憶はほとんど残ってない(後にその受付のお兄さんとも一緒に仕事をする事になる)。

そんな憧れだった新宿LOFTのステージに、自分が演者として初めて立つ日が来たのが、おそらくこれ。

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当時僕が組んでいたpopcatcherというバンドで、結成2年目くらいの時だったと思う。この辺の話は追々『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 で語ることとして、今回話をしたいのは"沖縄"との邂逅についてである。

この日、念願のLOFTデビューで浮き足立っていた僕らは、サウンドチェックを終えて何か食べ行くべとなり、手伝いに来ていたバンド仲間が当時ウルフルズのローディーをしていて、メンバーさん達と良く行く美味い店がコマ劇場(今は無き)にあるというので行ってみようという事になった。

「沖縄料理?」

20代前半、横浜家系ラーメンを至上としていた横浜系バンドマン達にとって聞いたこともないジャンルだった。沖縄…南国? というくらいの認識だ。

強いて言えば、中学の時からCDを買って聴いていた坂本龍一のアルバム『NEO GEO』でフューチャーされていた沖縄民謡的アプローチを耳にしていたくらいだろうか。

(それにしても今聴いてもとても格好良い)

という訳で、まぁせっかくだしともかく行ってみようぜと一行はコマ劇場へ向かった。
店に着くと、まず目を引いたのが内装だった。どこもかしこも赤い。中国のようでもあるが、またどこか違う雰囲気が漂う意匠。
やけに明るいお姉さんにお座敷に通されると、壁一面には沖縄の風景であろうやたらコントラストが強調されたポスターや島々の航空写真、初めてまじまじと見る沖縄県の地図など、所狭しと貼られている。
(こんな綺麗な海なんてあるんだ…しかもこれ日本なんだよな…)

「はい、これメニューね。好きなの言って頂戴ねー。」

ヒラヤーチー、ラフテー、スーチカー、海ぶどう、ポークたまご、ソーキそば・・

並んでいる品書きは、もはや魔法の呪文だ。
一同、皆目見当もつかず、友人に説明してもらって何とか注文を済ませる。

ほどなくして、"沖縄そば"がやってきた。
むむむ…?! どうみても蕎麦じゃないし…ラーメンでもなさそうだ…。

わりと生粋の江戸っ子ルーツの僕からしたらてんで正体が掴めない。
おそるおそる、汁をすくい口に運んでみる。

・・・!!!!!

その瞬間。

ぶわーーっと既視感のある風景が頭の中に拡がり、一気に肌が粟立った。

・・なんだこれ、初めて口にするのに、なんかすごく懐かしい気持ちがする…。

う、美味い。

ものすごくシンプルだけど、何かと何かが重なり合って生まれた多様性のある出汁の旨味。(きっと当時そこまで解っていないけど、それが鰹出汁と豚骨出汁が合わさったものだというのを後に知りものすごく腑に落ちた。)

と、マシュマロ製のハンマーでぶっ叩かれたみたいな優しい衝撃をくらってるその時、

「えぇーっなんだコレ、味しねぇじゃん〜!」

わがドラマーよ…。それはそうだろう、君の主食はBURGER KINGのワッパーチーズとコーラだものね。いいんだよ…。

そんな彼を横目に、僕はラフテー、ポークたまごと、次から次へと箸(もちろん赤黄の"うめーし"だ)を伸ばし続けた。どれも経験したことのない優しく奥深い暖かな味に、僕はすっかり夢中になった。

ふと、顔をあげると壁に貼られた1枚のチラシに目が吸い寄せられた。

「沖縄へ行こう! 格安航空券、手配します。」

沖縄って…行けるのか。(当然行けるんだけど)

よし、決めた。ぜったい行く。

この時を境に、僕は0から100の振り幅で、この先の人生において"沖縄"を意識することになる。そんな琉球への守礼門たる入り口は、「食」だったのである。あの衝撃の感覚は、今でもハッキリと覚えている。

こうやって始まった沖縄との数多のエピソードは、これから思い付くままに綴っていけたらと思う。

奇しくも、今夜は沖縄そばもラフテーもゴーヤーも家にあるので、泡盛でも傾けながら島に想いを馳せてみることにしよう。


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