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弾けないギターを弾くんだぜ。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 

中学生編 -1


ギターが欲しいっ!

それまでシンセのカタログばかり眺めていた僕は、取り憑かれたようにギターの広告を見漁るようになった。

当時は、少年ジャンプの最後の通販みたいな胡散臭いやつばっかりで、
まともなモノは、小学生がおいそれと買えるわけもなく、文字通り指をくわえて見るしかない日々が続いた。

そうして僕は中学生になった。

といっても、この小さな町では顔ぶれが大して変わることもなく、新しく音楽好きなやつと出会えそうな雰囲気は皆無だった。(何ならまた山の上に中学校はある)

変わったことと言えば、クソみたいな校則が出来たことと、クラスメイトがいつの間にかヤンキーになっていたことくらいだ。


そんな悶々とした毎日を過ごしていたある日。
親戚から電話がかかってきて、家族が世間話をし終わった後、
従兄弟の兄ちゃんと電話を替わった。


「マタくんひさしぶり。最近も音楽聴いてる?」

「うん、今はバンドが好きでさ、ギターが欲しいんだよね。」

「え、オレ持ってるよ。ほとんど弾いてないからもうホコリかぶっ」

「うおおおお!! フ、フルートと交換しよっっ!!!」

なぜ、とっさにあのフルートとの交換条件を思い付いたのかは謎だ。

「…ふむ、フルートか。悪くないね、その話乗るよ。」

なぜ、その従兄弟もこんな提案を快諾したのかは謎だ。


どうであれ、晴れて念願のギターを手に入れることとなったのである。


その頃、時を同じくして僕はいわゆる「人生初のライブ」を体験することになる。


映画『TOP GUN 』。
言わずと知れたトム・クルーズの出世作だ。

(しかしトム・クルーズかっこいいな…)

奇しくも今年2020年12月、最新作『Top Gun: Maverick』が上映予定。


80年代の特徴として、映画のサウンドトラックがとにかく秀逸で、それをもってして音楽・映画、双方へのヒットを狙ったプロモーションがとにかく盛んであった。

このサントラがキッカケで大ファンになったのが、
Cheap Trick

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実際彼らは70年代にデビューしてるバンドなんだけど(未だ現役!)、メロがかなりPOPで、メンバーのキャラ分けもユーモアがあって親しみやすく、過去アルバムまで遡ってだいぶ聴き込んでいた。

彼らは『Cheap Trick at Budokan』というライヴ・アルバムがヒットしたことによって、世界中に「武道館」の名前を知らしめて、すでに日本では世界では類を見ない不動の人気が確立されていた。

BEASTIE BOYS(I love it !)がこのライブMCをサンプリングしているのは有名な話。


その、Cheap Trick が来日するとの情報が入ってきたのだ。

すげぇ! 来日!
ってことは、これが初のコンサートになるのかな…。
ひとりで行くの、ちょっと悩むけど。。

もちろん一緒に行くやつなんか誰もいないけどな。

でも本物のライブが観られるんならどうってことない。

もうすでに、BOØWYの解散ライブのチケット争奪戦(学校の休み時間、公衆電話から挑んだ)に敗れ、ひとり涙を飲んでいた身としては、行きたいと思ったら絶対にいってやる。


かくして無事にチケットは入手でき、そのコンサート当日を迎えた。

平日だったので学校終わりになんとか急いで横浜まで行かなければならず、
期待と緊張が入り交じり、下校時刻までまったく生きた心地がしなかった。

いざ、下校のチャイムがなり、ダッシュでひとり下駄箱に向かった。

靴を履き替え、また山を下る坂道を走り始めたとき、
僕は目を疑う光景を目にする。


なんと、クラスメイト達が僕のうしろをついて走って来るではないか。

(・・え、どういうこと??)


「マタヒコ、がんばれよ!」

(は?)

「急げ〜!」
「がんばれがんばれ!!」
「訊いたぜ、オマエこれからライブってやつなんだろ?! 」
「ガイジンらしいじゃん!」
「すげ〜!!」

はぁ〜〜
何を言ってるんだこいつら。
バカなの?

僕は何ともうまく返しようもなく、微妙な笑顔を張り付かせながら走り続けた。


みんなめちゃ楽しそうだな。


今までたいして仲も良くなかったはずのやつらに囲まれ、僕はその長い坂道を息を切らせ駆け下りていった。

もうそこまで近づいていた冬の足音も、そんなスニーカーの音たちにかき消され、僕たちにはまだ聞こえてこなかった。


ーつづくー



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