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満を持して書く弟のこと。(ある意味私より被害者)その3

 私もそれは理解できたので、
「晴信だけ○○○を買ってもらってずるい!」
 というような比較による妬みは言わないようにしていた。
 私が欲しい物は、何であろうと必ず反対され、何度もねだってようやく渋々買ってもらえる。
「まったく、こんな物欲しがっちゃって」
 というような嫌味が必ず「おまけ」としてついてきた。
 一方晴信は、それほど頼みこまなくても欲しい物は、すぐに買ってもらえていた。
「あれ? もう買ってもらったの?」
 そう思ったのは、一度や二度ではない。
 ある時期は、毎日父がタイガーマスクの塩ビのフィギュア(当時は人形と言っていたけれど)をお土産に買ってきていた。
 私には、何もない。
 人形なので、女子の私も一緒に遊べるだろう、と思ったのかもしれない。
 タイガーマスクは、プロレスのアニメ。人形は怖い顔をした敵のプロレスラーだったりするわけで、私は全然楽しくはなかった。
 私たちは、私が小学一年になるタイミングで家から15分ほど離れた保育ママの島谷さんの家に預けられることになった。それまでは住みこみのお手伝いがいたのだけれど、ことごとく一年未満で辞めていくので、方針を変えたみたいだ。



 これは数年前に聞いて本当にびっくりしたのだけれど、保育園を卒園した春、園があったお寺の敷地で私と弟を遊ばせていた母が、たまたま同じように遊びに来ていた島谷さんと世間話をしたそうだ。
「この春から、お手伝いさんが辞めてしまうので子どもたちをどうしたら良いかと悩んでいるんです」
 と母。
「あら、それなら私が預かりましょうか。他にも、数人乳幼児を預かってますの」
 島谷さんが言ったらしい。
 まさに、渡りに船。それで、決まったらしい。
 考えてもみてほしい。卒園後の春休みと言えば、あと2,3週間で小学校の入学式だ。
 母はこの日のことを運命の出会いみたいに語るけれど、もし見つからなかったらどうするつもりだったのか。あまりにも呑気ではないか。母は、公立中の教師だったので、その時点で辞めることなどできない。

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